約 1,885,923 件
https://w.atwiki.jp/touhou_orisina/pages/94.html
基本スペック 基本能力値 考察 基本スペック 名前 ルイズ 異名 魔界人 種族 魔人族 雇用種族 魔人 雇用クラス 魔人系 特殊雇用 初期勢力 放浪 初期レベル 5 初期スキル 魔人剣、ダークネスE 固有スキル リーダースキル 魔力UP、魔力限界突破 必殺スキル なし 取得スキル 基本能力値 基本能力値 HP 1400 MP 100 攻撃 80 防御 30 魔力 80 魔抵抗 30 素早さ 80 技術 80 HP回復 3 MP回復 5 移動 220 移動タイプ 魔界 exp_mul 125 召喚可 2 耐性 火 水 土 風 霊 光 闇 弾幕 毒 麻痺 幻覚 混乱 沈黙 石化 恐慌 吸血 魔吸 ドレイン 即死 パワフル 洗練 弱い 強い 強い 強い 強い 強い 超強 強い 強い 強い 強い (空白は強くも弱くもない・普通) 限界突破 限界突破Ⅰ:スキルを強化します(ダークネスE→ダークネスN) 限界突破Ⅱ:スキルを強化します(魔人剣→魔人剣Ⅱ) 限界突破Ⅲ: 考察 名前 コメント すべてのコメントを見る ある程度レベルが上がるまでは神綺の部下推奨 -- (名無しさん) 2011-09-08 22 21 46
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4641.html
前ページ次ページルイズの魔龍伝 2.異世界の夜に 「普通だったらこの世界に存在する幻獣その他もろもろを呼び出すの。 あんたみたいな良く分からないのが出てくるなんてトリステイン魔法学院始まって初めての事だわ。」 「しかし驚いたな、俺のような姿をした者は本当にいないのか…」 「むしろアンタみたいなゴーレム、どこから出てきたのか私が知りたいぐらいよ」 ルイズの自室、高級そうな調度品が所々に置いてあり貴族のいる部屋、というのが何となく伺える。 ベットに腰掛けるルイズの目の前にはどっしり胡坐をかいて腕組みをしているゼロガンダムの姿があった。 窓から差す午後の日差しも沈みかけて鮮やかなオレンジに色になっている、そんな時間の事である。 「それはいいが…俺の事はゼロと呼んで欲しいのだが…どうしても駄目なのか?」 「絶対にいや」 「ゼロのルイズと呼ばれてるのに何か関係あるのか」 「うるさい!次に同じ質問したら壊すわよ!」 「…ふぅ」 これで二回目の問いかけであったがやはりルイズはむっとした顔で聞き入れてくれなかった。 サモン・サーヴァントはこの日の授業の最後の科目であり 終了後は使い魔との交流という事でルイズのクラスは他より早く放課になっていた。 なのでルイズもゼロを連れて部屋へ戻って使い魔についての説明をしていたのである。 「材料の調達は地理を知るのにいいし、必要なものは君が教えてくれればいいからな」 「うん」 「守る…これも仕方が無い、この世界を知るためにしばらくここに身を置く以上勤めは最低限は果たそう」 「うんうん」 「だが、何で俺が掃除雑用下着の洗濯までせねばならんのだ!」 「だって使い魔の勤めだもの」 軽く怒っているゼロにしれっと言い放つルイズ。 「断る」 「義務」 「…埒が空かんな。仕方が無い、話を変えて俺の事も少し話そう。」 「じゃあ聞かせてもらうわよガンダム」 掃除雑用下着の洗濯を巡る攻防に終わりが付かないと判断したゼロは話題を換え 自分の事について話す事にした。これで理解してもらえば下着の洗濯だけは 避けられるかもしれない、そう信じていた。 「俺の名前は…まぁ知っているか、これでもユニオン族というれっきとした種族の一つだ。」 「しゅ、種族ぅ!?アンタってゴーレムじゃなかったの!?」 「…召喚された時も俺はゴーレムじゃないと言ったぞ」 「だってアンタみたいな種族なんて聞いた事無いわよ。 どこかの高名なメイジが作った自意識があるゴーレムか何かかと思ったわ。」 「それで、俺はこの世界とは別の世界であるスダ・ドアカからやってきたって訳さ。」 ルイズの顔が一気に胡散臭いものを見ている顔になる。 「異世界?全然信じらんない」 「君が信じようが信じまいが俺はスダ・ドアカという世界から来た、それだけだ。」 「…一応そういうことにしておくわ、ゴーレムさん」 下着洗いを回避しようとするならば多少の事は我慢する必要があった、ゴーレム扱いもやむなし。 そう思いつつゼロはルイズの言葉を流しつつ更に説明を続ける。 「あと俺はまぁ…騎士だ、己の剣の冴えで戦う者。流石に騎士ぐらいはこの世界に存在するだろう」 「それならいるわね、あんた自身は魔法とかは使えないの?」 「無縁だな、とりあえず君を守るという事なら出来る実力ならあるさ。」 「ふーん 本当はかなりの事が出来るのだが正直に話した所で絵空事に取られるだけだろうと考え ゼロはとりあえず騎士、という事にした。 あまり力はひけらかさない方が良い、力とは良くも悪くも人を変えてしまうものだという 考えもあっての事ではあるのだが。 「(ゴーレムかと思ったら良く分からないし魔法は使えないっていうし…)」 そっけない受け答えをしながらも内心ルイズは落胆していた。 自分の望んでいた使い魔のイメージとはまるでかけ離れていたのもあるが 金のような鎧に妙なと見た目で、しかもゴーレムにしては 身長がルイズよりやや大きいぐらいの小ぶりな大きさ。 「(…夢と違うじゃないのよ)」 あの夢はなんだったのか、自分を乗せて雄大に飛ぶあの黒い龍はどこへ? 彼女の疑問は尽きなかった。 「という事で下着の洗濯はやってもらうから」 「なぬっ!」 結局ルイズはゼロに下着洗いを命じたのであった。 「…これは何だ?」 「何ってあんたの食事よ」 日もとっぷり落ちて夕餉の時間、大きいテーブルが三つ並び荘厳な飾り付けが施された 『アルヴィーズの食堂』に通されたゼロが目にしたものは 床に置かれた皿と、申し訳程度に小さな肉片が浮かんだ琥珀色のスープ、そしてその皿の隅っこに ちょこんと置かれた小さいパン二切れであった。 「俺の席はどこだ?」 「何言ってるのよ、あんたは使い魔だから床で食べるの」 「…」 「本当は使い魔なら外で食べるんだからね、それだけでもありがたいと思いなさい。 っていうか物を食べるゴーレムなんて初めて見るわよ」 呆れ顔になってるゼロの心境を察してか止めを刺すつもりなのか ルイズの容赦ない一言が炸裂する。 「…」 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 「使い魔は使い魔らしく、俺も外で食べる事にするよ」 そう言ってゼロはスープとパンの乗った皿を持つと食堂を後にしてしまった。 当然後に残されたルイズは憤慨していた。 「なっ、なんなのよアイツ!次からは床じゃなくて外に用意してもらうようにしてやるから!」 「大きい月が二つ…か、俺も随分遠い世界に来てしまったもんだな…」 校舎の外、多数の生徒の使い魔が集まりそれぞれのエサを食べている中 どっしり座ったゼロは月を眺めながらパンをかじりスープをすすっていた。 この世界における自分の待遇とスダ・ドアカ界には無い宙に浮かぶ二つの月が 自分が異世界にいるという事をより実感させてくれる。 「文句は言えんが…腹に据えかねるものが…っと、もう空か」 あっという間に食べてしまい目の前には何も無い皿しか残っていなかった。 物足りなさを感じつつも戻ろうとした時、自分のマントに何か違和感を感じたゼロ。 振り返ると尾に炎を灯た真っ赤で、結構大きなトカゲが彼のマントを引っ張っていたのである。 「きゅるきゅる…」 「中々立派な火竜だな、こっちでいうとサザビードラゴンかそのあたりか?」 そのトカゲは自分の足元にあった何かの生肉を加えてこっちに差し出してくる。 「…もしかして俺にくれると?」 「きゅる」 「いいよ俺は。その気持ちだけ有り難く受け取っておくさ」 大トカゲの頭を撫でたゼロを見てたいた他の使い魔達も自分が食べていた餌を運んで来た。 何かの生肉をはじめとして草や虫、ミミズなど野性味溢れる餌がゼロの前に積まれてゆく。 「いや、俺が足りないなとは思ったけど別にそこまでは欲しくないぞ!いいから!お前たちで食え!」 ゼロは皿を手に取ると熱烈的な使い魔達から逃れるように再び食堂へと戻っていった。 その時、右手のルーンがぼんやり光を放っていたのにはゼロ自身も気づいてはいなかった 「(ちょ~っと調子が狂ったけど一日の最後こそは きっちりと主従関係を叩き込んで締めないとね!)」 一日も終わり就寝の時間、ルイズは決意を固めながらゼロと自室まで歩いていた。 「さて、寝る場所だけどあんたはここね!こーこ!」 「床か?」 「そう、使い魔だから当っ然床!これ以上ない位床よ!」 ドアを開けた途端から高圧的な態度で床を指差しゼロに話すルイズ。 「(いくらなんでもこれなら私の立場が上だって気づいて…)」 「そうか、すまないが鎧を置かせて欲しい」 「え?えああそそっ、そうね、そこのクローゼットの隣に置けばいいんじゃないかしら?」 「悪いな」 今まで流浪の身であったゼロにとっては野宿は当たり前、ましてや敵の気配も無いここなら どこであろうと問題なく眠りに就けるのであった。 ルイズの企みはあっけなく幕引き。目の前で鎧を脱いで指定した場所に置くゼロの横で 同じく服を脱いでそこら辺に投げるルイズ。 「ルイズ」 「何よ、ご主人様と呼びなさいって言ってるでしょうガンダム」 「女の子なら多少は恥じらいを持った方がいいぞ」 「使い魔、しかも人間じゃない奴に見られても別に何とも思わないわよ!」 そういってさっさとネグリジェに着替えた彼女はすばやく布団に潜り込んで指を鳴らすと 部屋を灯していたランプも消えてしまった。月の明かりだけが部屋に蒼く差し込む。 「使い魔の説明の時にも言ったけどそれ、明日洗っといてね」 先ほど脱いだ下着を投げ口早に言うとそれっきり彼女は一言も喋らなくなった。 「(やれやれ、とんだじゃじゃ馬娘だ)」 ゼロは脱いだ鎧にかかっていた自身のマントをひったくり、それに丸まって床に横になった。 「(ユニオン族のいない異世界…か)」 心に去来するのはかつての戦いの記憶。 強大な力を持った遺跡、ドゥームハイロウの力によりユニオン族が抹消され 幻魔皇帝がザンスカール族を率い人間を統制支配する悪しき世界。 生き残った唯一人のユニオン族であるゼロは受け継がれた雷の技と 一族に伝わる神の獣、龍機ドラグーンを用いこれに挑んだ。 雷の奥義にて召喚された城は巨人となりて幻魔皇帝と戦い、抹消されたはずの仲間も 精神のみの状態で現世に舞い戻り自身に力を与えた。 集う力はついに幻魔皇帝を討ち破り、消えたユニオン族をこの世に再び戻し平和を取り戻した…。 「(雷龍剣よ、俺はこの世界でどうすればいい?)」 かつての戦いが思い浮かんでは消えていき、その意識も眠りの中にゆっくりと落ちていった。 彼の、長い一日はこうして終わりを告げたのである。 前ページ次ページルイズの魔龍伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4640.html
前ページ次ページルイズの魔龍伝 1.ゼロに喚ばれし「ゼロ」 少女は夢を見ていた 今まで見たことの無い夢 稲光が走る雷雲の中、巨大な黒い龍が飛んでゆく そして、その龍の背に乗っている少女 「(私は…どこへ行くのだろう)」 少女の想いを乗せて、黒い龍は雷雲の中を飛んで行った…… “彼”は目の前の状況を理解しようとしても到底出来るものではなかった。 「(人間…の少女?何だ?周りの奴も似たような格好…制服…?学校か何か?)」 旅の途中、目の前に突如現われた鏡のような物体。 異様な雰囲気に敵の罠かと思い剣をとっさに抜き斬りかかったら、 突如光が視界を覆い尽くし気づくとこの風景である。 抜けるような青空、そよぐ平原、後ろにそびえる大きく荘厳な建造物。 そして目の前にいるブラウスでスカート姿、マントに小さな杖を持った桃色の髪の少女。 その後ろにいる桃髪の少女と同じような格好の大勢の少年少女。 「ルイズの奴、変なゴーレムを召喚しちまったぞ!」 「でもなんか小さいな…こんなチビゴーレム見た事無いぜ」 「出来損ないが召喚するからこうなるんだよ、ルイズの奴にはお似合いのチビだな!」 後ろにいる少年少女の笑い声が聞こえる。 一体何がどうなっているやら、この状況を知るために彼は近くの少女に話しかけた。 「そこの少女、ここは一体どこだ?」 「ミスタ・コルベール!召喚のやり直しを要求します!もう一回だけ!」 「それは出来ない相談だミス・ヴァリエール。いいかい?このサモン・サーヴァントは 全ての生徒が二年生に進級する際に行う儀式であり使い魔を召喚する事なんだ。」 召喚、と少女と話していた禿頭の男性が言っていたのを彼ははっきりと聞いた。 「…おい」 「ですが!」 「くどいぞミス・ヴァリエール、ゴーレムでも呼び出したものは使い魔。 君と一生を共にするのだ、やり直しも当然利かない事は勤勉な貴女が良く知っているはずでしょう。」 「おい!」 「同級生にあそこまで言われてるんですよ!私は出来損ないのままではいたくないんです!」 「伝統は伝統、曲げる事は出来ない。さぁサモン・コントラクトを行いなさい。」 「えぇー!?」 「人の話を聞け!!」 彼が一喝するとミス・ヴァリエール、もしくはルイズと呼ばれた少女に ミスタ・コルベールと呼ばれた禿頭の男性、それと後ろで騒ぎ立てていた少年少女。 全てが急に雷に打たれた様に黙ってしまった。 「人を召喚!?ふざけるのも大概にしろ!俺は魔物や幻獣じゃない!ましてやゴーレムでもな! それを何だ!勝手に呼び出してこちらの都合のお構いもなしに話を進めて! まず呼び出したらそっちの名前を名乗って状況の説明ぐらいしてみろ!」 「え、あ…」 少女は正直混乱していた。呼び出した変なゴーレムが急に、しかも大声で喋ったのだ。 数回の失敗を重ねてやっと召喚したその使い魔がこれである。 昨夜の晩、黒い龍に乗った夢を見たのでれっきとした根拠とは言いがたいがかなりの自信もあった。 万感の想いを込めて召喚したその使い魔が、これなのである。 いきなり状況を説明しろだの俺はゴーレムではないだの、一体何がなにやら。 が、気圧されてるままというのは彼女のプライドが許さない。 「そそっ、そうね!使い魔に基礎的な知識を教えるのも主人の勤めよね!」 「(使い魔って何だ、俺は誰かに使役されるとでもいうのか!)」 彼はそう言おうと思ったがとりあえず状況を聞くだけ聞いてみる事に決めて黙り込んだ。 「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、名門公爵家である ヴァリエール家の三女よ、以後あんたのご主人様として私に従ってもらうからね。 そしてここはかの有名なトリステイン魔法学院、メイジを数多く輩出している名門中の名門ね!」 「おい、今“ご主人様として私に従ってもらう”と言ったな?」 「そうよ、召喚したあんたは私と契約して使い魔になるの、お分かりゴーレムさん」 「ふ…」 「ふ?」 「ふざけるなッ!!」 「ひゃぁっ!!」 桃髪の少女、ルイズの前で腕組みをした彼は一喝した。 「貴族だか何だか知らんが俺はそんなものに従う義理もなければ理由も無い、さらばだ」 ぽかんとする一堂を置いて彼は彼女達を背に歩き出す。 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 「旅の続きをする、ラクロア王国のある方角はどこだ?」 「ラクロアぁ?そんな国小国でも聞いた事無いわよ、アンタどっから来たのよ?」 「俺の方こそ聞くがトリスティンとはどこの地方の国だ? 俺も長い間旅をしているがこの国名は初めて聞いた」 「ハァ?喋るゴーレムだから知識があるかと思ったら全然当てにならないじゃないのよ」 今のやりとりで彼は心の中でとても引っかかりを感じた。 「(待て、いくらなんでもラクロアを知らないのはおかしいぞ! ナイトガンダムに纏わる数々の伝説の発祥地、ラクロア騎士団といえば かのアムロ騎士団長をはじめ人間、ユニオン族様々な腕利きの騎士を輩出した かなりの知名度を誇る王国!人間族でもユニオン族でも知らぬはずが無い!)」 彼の中で思考が加速する、彼女が挙げる全く知らない国、自分の挙げる国を全く知らないという彼女。 自分の中の、あまりこうだと決定したくない答えを確かめるため彼は彼女に聞いた。 「…ここはスダ・ドアカ・ワールドではないのか?」 「何それ?知らないわよ」 決定的である。この返答から導き出される答えは一つであった。 「俺は……異世界に来てしまったというのか!」 「ミス・ヴァリエール、早くコントラクト・サーバントを。 今日の召喚は貴女が最後ですので早く終わらせなさい。」 「はーい…仕方が無いけどゴーレムならまぁ、抵抗無く出来るかしら? 我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我が使い魔となせ」 これからどうしようか考え事をしている後ろでなにやらルイズとコルベールが喋っている。 使い魔と聞こえたのでまだ自分を使役しようと算段しているのであろう、と彼は考えていた。 「だから俺は使い魔なんかやらな…」 「いい事?ゴーレムとはいえこんな名誉な事、あるもんじゃないんだからね」 彼が断りながら振り向くと何故か顔が赤いルイズが彼の口?のような赤い出っ張りに そっ、と口をつけた。 「なっ、何を……すっ、ぐああああああああっ!!」 今まで感じたことの無い痛みを右腕に感じた彼は思わず呻きを上げてしまう。 「はい、おしまい。全くゴーレムの癖に痛みまで感じるなんて何なのかしら?」 「ぐっ…はぁ、はぁ…」 「珍しいルーンだね、後でスケッチさせてもらうよ」 近寄ってきたコルベールがそう言うと彼の右手を持ち上げてまじまじと見つめる。 確かに彼の右手には何か紋様のようなものが刻まれていた。 「契約完了ね、ゴーレムさん」 「だからゴーレムじゃない!俺はゼロ、ユニオン族のゼロガンダムだ!!」 かくして異世界からの来客、ゼロガンダムは 半ば強引に少女・ルイズの使い魔にさせられたのであった。 ――――――――そのはるか上空、浮遊大陸さえ手に取るようなぐらいの高度で“それ”はいた。 「頼んだぞ…正義の雷、聖龍の騎士よ…いずれ時満ちれば、再び舞い戻ろう……」 悠然とどこかへ飛んでゆくそれは、黄金の龍であった。 前ページ次ページルイズの魔龍伝
https://w.atwiki.jp/yaruo_lunatic/pages/18.html
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━┓ 【名前】 ルイズ 【レベル】10 【アライメント】中立・善┣━━━━━━━┳━━━━━━━┳━┻━━━━━┳━━━━━━━╋━━━━━━━┳━━━━━━━┫ 【筋:E-】0 【耐:E-】0 【敏:E-】0 【魔:EX】- 【運:B】40 【宝:-】-┣━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┻━━━━━━━┫ _ --- _ ,,x‐'''"´ `ヽ ./ \ ヽ \ ./ ヽ ヽ .ヽ / | ヘ \ ヘ ゙、 .ハ ./ | ヘ、 _;、ヽ-ヘ ゙、 ハ / / ヽ x|'"ゝ_ヽ\ヘ ヘ | ./ . | . . | | l ゙、 | _,,=-‐テ, ハ l | | | . . |_,-|ナてリゝ _ ,、 | /| | . .| | | . | . . | . . | `` `' / | | | . ゙l |、 | | / | | | ゝ、|ヽ|ヽ、 |、 、 ./ . | | \ ゝ、ヽ __ / / | ゙l . . ``ヽ r、 { / ヘ .| | l > .| |_ <ヘ /l ヽ / | | | ;;- | | _xヘ |、_ \ / ノ | | ̄.. .| | /ヽ ,ヽ ト、``¨ヽ `ヽ / / .| |. | |y ∨ \ ヽ ヽ、 ヽ ./ / ./ |. | | ヽ 〕 ヽ `i バ、 ./ / ./ / /`ヽ | ./ .〉 ヘ l ハ / ./ ./ / / , ´`ヽ| ./ / ヽ | ヘ / / l ./ イ ゚x‐‐/. .'二ヾ| / /、 \ l / / .\ ; / / r''´| r、, 〉| / / /\ ヘ | l /l /‐-゚ヽ / | ゝ.ノ| ||O|/ ./ | / . . . ヽ ヽノ x''"´ ̄`ヽ;/ r‐''/ ゝ__ノ〉|_|| | ゝ、 . . .__〈,, -‐- ゙、┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫【スキル】○ゼロのルイズ: 時計塔の大貴族である一族の歴史の中でも類を見ない膨大な数の魔術回路を持ち、 極めて希少な架空元素“虚”と“無”の二重属性を持つ反面、 希少過ぎる属性と特異過ぎる魔術回路から、簡単な魔術すら制御できず暴走させてしまう。 時計塔きっての神童にして問題児にして落ちこぼれ。ついた徒名が”ゼロ”のルイズである。 [DATA] サーヴァントへ魔力を供給する際、このキャラクターの【魔】を「150」として計算すること。 +初期時 [DATA] サーヴァントへ魔力を供給する際、このキャラクターの【魔】を「100」として計算すること。 ○失敗呪文: E- 暴走した魔力をガンド撃ちの要領で目標に向けてぶっ放す、ルイズが唯一使用できる魔術? 並の魔術師なら一瞬で枯渇するほどの魔力を用いたその一撃は、着弾と同時に大爆発を起こす。 効率を度外視すれば、一工程で連射できる非常に剣呑な術式である。 [DATA] 戦闘の開始時に30点の魔力を消費する事で使用を宣言できる。 このキャラクターの【魔】を「50」に変更し、ステータス比較の際に同点の魔力を消費することで、 選択されたこのキャラクターのステータスを【魔】と同じ数値に変更できる。 この効果はステータス比較毎に使用でき、変更されたステータスに対して自陣は「対魔力」の効果を受ける。┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫【???リスト】○魔力放出: A 武器、ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって、能力を向上させる。 膨大な魔力はルイズが意識せずとも、濃霧となって体を覆う。 [DATA] 戦闘開始時に「このキャラクターの【魔】÷2+10」点までの任意の魔力を消費すること。 消費した魔力5点ごとに、このキャラクターの【筋】【耐】【敏】のいずれかのステータスに「+5」の修正を加える。○合気: A [DATA] 1戦闘に1回、【筋】【耐】【敏】のステータスが選択された時に使用を宣言できる。 選択されたステータスで敵陣が使用した数値的な修正を全て無効にする。○勇猛:A [DATA] 【筋】【耐】【敏】の内、最初に選択されたこのキャラクターのステータスに「+15」の補正を与える。 また、1戦闘に2回、このキャラクターがペナルティ修正を受けた場合、それを「15」点分まで打ち消す。○宗和の心得: A [DATA] ランダムステータスの選択の際、【運】以外のどれか一つの候補を、 既に選択されているステータスに変更する事ができる。○圏境: A [DATA] 戦闘時、敵陣の全参戦者のステータスに常に「-15」のペナルティ修正を与える。 また、「A+」ランク以上の感知系スキルを持たない相手には「先制攻撃」を行え、常に自陣から先にステータス比較を行える。 さらにこのキャラクターへのステータスに対するペナルティ修正を常に「15」点まで無効化する。 1ターンに1度、1戦力以上の優位を得た戦闘で敗北した時、 魔力を「90-自陣の勝率(最低40)」点消費する事で、令呪を消費せずに戦闘から離脱できる。○戦闘続行: A [DATA] 1戦闘に1回、勝率判定を振り直す事ができる。この際、自陣の勝率に「+12」%の補正を加えること。 戦闘に敗北した場合でもこのキャラクターは消滅を免れ、戦闘終了時に魔力残量を「-94」点に変更される。 この状態で1度でも戦闘を行うか、3ターン以内に魔力量を0以上にしない限り、魔力の残量に関わりなく消滅する。○仕切り直し: A [DATA] 勝率判定を行う直前に使用を宣言できる。「自陣が受けている戦力の劣位数×25」点の魔力を消費する事で、 自陣営は令呪を消費せず、その戦闘から離脱する事ができる。○ルーン: A [DATA] 戦闘の開始時、このキャラクターの任意のステータス1つに「+15」の補正を加える。 またステータス比較時に【魔】のステータスが選択された際、自陣の任意のステータス1つに「+15」の補正を加える。○法術: A [DATA] 【魔】のステータスが選択された時、自陣の【魔】に+「15」の修正を加える。 敵陣にサーヴァントや「属性:悪」、または「怪力」等の霊系、魔物系スキルを持つキャラクターがいる場合、 次に選択された敵陣のステータスに「-15」のペナルティ修正を与えること。○宝石魔術: A [DATA] 「使い捨て礼装の作成」で「魔宝石」を選択した場合、成功率が「100%」に変更される。 また、ステータス比較の際に「魔宝石」を1個消費する事で、 比較で選択された【宝】以外の自陣のステータスに+「15」の修正を加える。 この効果はステータス比較毎に「魔宝石」を消費する事で使用する事ができる。○高速詠唱: A [DATA] 【魔】のステータス比較で勝利した時、10点の魔力を消費する事で使用を宣言する。 次に選択される【魔】以外のステータスでも「法術」「ルーン」の効果を受けるようになる反面、 自陣は「対魔力」のペナルティ修正を受けるようになる。○呪歌 : A [DATA] 戦闘の開始時に使用を宣言する。 その戦闘の間、敵陣が持つ「Bランク」以下のスキルは使用を宣言できず効果を発揮しない。○気配遮断: A [DATA] 戦闘の開始時、「不意打ち」として扱い、最初のステータス比較を自陣から先に行える。 敵陣に 同ランク以上の「○直感」や探知系スキル持ちがいる場合、「不意打ち」は発生しない。 また、1回目に行われるステータス比較で、敵陣の全キャラクターに対し「-15点」のペナルティ修正を加える。○追撃の心得: A [DATA] 戦力の比較で勝利した時、次に選択されるステータスに「+15」の補正を得る。 また、敵陣が戦闘から離脱する際、同ランク以下の撤退を支援するスキルや宝具の効果を無効化できる。○騎乗: A [DATA] 自陣の勝率に「+12%」、最初のステータス比較で選択された自陣のステータスに「+15」の補正を加える。 この効果は戦闘の開始時に専用の「使い捨て礼装」1個を消費しなければ使用できない。○変装: A [DATA] 通常の透視能力でステータス情報を確認する事ができなくなる。 但し、相手がAランク以上の「◯直感」「◯心眼(偽)」等のスキルを持つ場合、この効果は無効となる。○心眼(真): A [DATA] 勝率を計算し宝具を使用する前の時点で自陣の勝率が「60%」以下の時に使用できる。 ステータス比較の中から1つを選択し、選択した自陣の数値を未使用のステータスに変更しても良い。 この効果で戦力の優劣が変化した場合、勝率の再計算を行う事。○千里眼: A [DATA] 「サブ」で参戦した場合でも【筋】【耐】【敏】【魔】のステータスを半減せず使用できる。 また、敵陣に「A」ランク以上の「気配遮断」等の隠蔽系スキルが無い状況で自陣から襲撃を行う場合、 「狙撃」を選択でき、互いに「メイン」にキャラクターを配置せず、このキャラクターを「サブ」にして戦闘を行える。 この時、敵陣が「1戦力の優位」を得た時点で、両陣営のステータス半減が解除される。○陣地作成: A [DATA] 行動ターンに「陣地作成」を選択できる。(一つの霊地につき2回まで) 1回目で「工房」に、2回目で「神殿」になり、以下の補正を受ける。 「工房」:霊地による回復量2倍。この霊地で戦闘時、自陣の「基礎勝率」に 「+18」%の補正を与える。 「神殿」:霊地による回復量3倍。この霊地で戦闘時、自陣の「基礎勝率」に 「+36」%の補正を与える。○道具作成: A [DATA] 「礼装作成」の判定に「+このキャラクターの【魔】×2.4」%の補正を加え、 「最終的な達成値÷100」個の礼装を得ることができる。○専科百般: A [DATA] このキャラクターのスキルに設定されている数値的な効果の内、 ステータス等を加算する効果であれば+「5」、補正を加える効果であればさらに「1.2」倍する。(適用済み) また、戦闘以外で行う判定の達成値に+「30」%の修正を加える。┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫【使い捨て礼装】なし┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫【解説】 時計塔所属の魔術師の少女。 ラ・ヴァリエールという名門貴族の娘だが、どうやら周囲から干されている模様。 “歩く爆弾魔”“教室壊し”“時計塔の秘蔵(しておきたい)っ子”、“ゼロのルイズ”等々、様々な徒名がある。┣━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┫ サタナエル時のステータス 戻る
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8218.html
前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その4 登場!宿敵(?)ギーシュ 荒れ果てた教室、煤けたピンクブロンド。 ミセス・シュヴルーズから“錬金”をするように指示されたルイズが起こした惨状である。 ムサシと手分けして教室を片付けているが、その表情は暗い。 主が塞ぎ込んでいるのを見たムサシは、そのあまりに沈んだ様子を見て気を効かせ声をかける。 「なあルイズ。一度や二度失敗したくらいで、クヨクヨすんな」 「……何よ」 「魔法だってたくさん修行すりゃそのうちできるようになるはずさ」 「ッ、あんたみたいな子供に、何がわかるのよ!」 ルイズが奥歯をギリリ、と噛み締める。 持っていた箒を足下に叩きつけた。 あまりの剣幕に驚くムサシは、きょとんとした眼でルイズを見つめる。 「そりゃおいら魔法のことはてんで知らねえけどよ。 学校で皆がやってることなら、なんべんも修行して─」 「……勉強なら誰よりやってる、練習だって何回もしてる! 練習でいつも傷だらけ、血だって流したわ!なのに全ッ然成功しないの!!」 溢れんばかりの涙を瞳に溜めて、ルイズは怒鳴った。 荒い息を抑えようともせず、尚も続ける。 「何をしても爆発!使える魔法なし!成功率ゼロ!だから“ゼロ”のルイズ!」 「……」 「それでやっと使い魔召喚が成功したと思ったら、あんた、みたいな、子供、だしっ……」 いつしかルイズの眼からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出す。 誰にも言えない、そんな感情をルイズは涙といっしょに零してしまったのだ。 もう、嫌だった。 全身の力ががくり、と抜ける。 「もう……いいわよ……どうせ、私は死ぬまでずっと、ゼロのまま……」 「何言ってんだ、皆にあのまま言われっぱなしでいいのかよ、ルイズ!」 「……もう、ダメよ私なんて……!!……運命には、逆らえないわ」 「─そんな運命なんて、クソくらえだっ!!!」 力なくへたりこむルイズの言葉を、今まで黙っていたムサシが遮る。 顔を上げると、そこには眉を釣り上げるムサシの顔があった。 「おいらが、なんとかしてやる」 ムサシは、刃を抱いて生きる兵法者だ。 大人でもまして色男でも無い、女性の気持ちなど理解できようもない。 出てきた言葉は、少々強引で不恰好だった。 「……チビのあんたに……何が、できるのよ! どうせ……皆といっしょに、私が失敗するたび……影で嘲笑う、そうに決まってる!」 「がんばる奴を、どうして笑わなきゃなんねえんだ!!」 半ば怒声に近いムサシの声が再び教室に響く。 しかしムサシの強い言葉に、ルイズはどこか心が落ち着いき、涙が引っ込んだ。 ぐしぐしと顔をこする主人に向き直り、とりあえずムサシはその場にあぐらをかく。 そうして、持っていた箒をぶんっ、と振りおろす。 「いいかルイズ」 「……何?」 ぴた、とこちらに向けられた箒にルイズは何と言えばいいか、威圧されて押し黙った。 膝を抱えて、目線を合わせるように座り込む。 いつのまにか、ルイズはムサシの目を見て話すようになっていた。 「おいらに技を教えてくれたヤツの一人に、ニックって騎士がいたんだ」 「?」 「そいつは、来る日も来る日も薪割りしてやっと騎士になった。騎士になってからも、薪割りばっかりしてた」 「……薪割りが何だっていうのよ」 「毎日してた薪割りが、ニックに“技”を編み出させたんだ」 「……技?」 言うと、ムサシはおもむろに立ち上がりルイズに歩み寄る。 叩きつけられた足下の箒を手に取り、両手に一本ずつ握りしめた。 “二天一流” ムサシの編み出した極意、俗に言う二刀流の構えであった。 その構えをとったムサシに、ルイズは言い知れぬ気迫を感じる。 虚空に向けて剣をゆらり、と動かす。 その刹那、右手で一閃、二閃と箒が唸った。 傍らのルイズに、その勢いがビリリと伝わる。 「……せいっ!」 そして、左手の一撃。 目の前の薪を、ささくれ一つ残さず完膚無きまでに両断するまでに極められた剣。 曰く、薪割りダイナマイト。 ルイズの髪が勢いでふわりと巻い上がった。 その余りの剣気に、いつしか悲しみはどこかに吹っ飛んでしまっていた。 「薪割りが、この技を生み出させた」 「……あ、う、うん」 「その騎士も、おいらも毎日剣を振ってる。ルイズは振るのをやめるのか?」 ムサシの言葉に、ルイズはハッとする。 自分が成してきた努力を、少年はその手に振るう剣に例えて肯定している。 ルイズに精一杯の激励を贈っているのだと。 「おいらは剣しか知らないし、魔法はどうだかわからねえけどさ。 毎日修行して、ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!」 「……ムサシ」 ずっと、そういう言葉を求めていたのかもしれない。 自分の努力を家族以外にこうして面と向かって肯定してくれる人がいる。 一緒に。 その言葉を投げかけ、側に居てくれる。 それだけで、ルイズの胸がじんわり温かくなった。 目頭もまた、かっと熱くなる。 「……あ、あんた、私より、ち、小さいくせに、生意気言ってんじゃないの!」 「顔くらい拭けよ、眼真っ赤じゃねえか」 「うるさーい!……ほら片付ける!」 ムサシの顔を見ていられなくてごしごしと顔をこする。 空気の読めない奴ねとぶつくさ言うも、その顔はどこか嬉しそうだった。 「何だよまったく、おてんばめ。やっぱ姫みてえだ」 ぶつくさ言いながらもせっせと一所懸命片付けるムサシ。 自分の部屋もフィギュアで散らかさないし、歳の割にはマメなのだ。 「……あ、あと……みっともない所を見せたわね……忘れなさい!今のは!」 「気にすんなって、生きてりゃいろいろあるさ」 「……あんたって。子供とは思えないこと言うわね、ホント」 目の前の少年が急に自分の姉達と同年代ほどにも思えて、ルイズは不思議な感覚を覚えた。 まったく、大人ぶっちゃってとぶつくさ言いながら教室の片付けを済ませて扉を閉める。 時間を見ると、急いで食堂へと向かった。 「……子供とは思えない、か」 教室を二人で整えるころには、昼休み開始の時間になっていた。 ムサシはルイズの後に続くようにして食堂へ向かった。 今朝と同じく賑わう食堂には大勢の生徒が既に着いている。 「じゃ、おいらはちょっとメシ食ってくらあ」 「え、ちょっと。あんたどこ行くつもりよ」 「料理人のおっさんと仲良くなったんだー!」 嬉しそうな顔をして厨房へ駆けていくムサシに、ルイズは声をかけられなかった。 よくよく考えてみれば使い魔の単独行動を許してしまった。 「……大人っぽいと思ったらこういうところが子供なんだから!勝手ばっかり!もー!」 先程の功もあるとは言え、主従関係をはっきりさせておかねばならないだろう。 ルイズは話を聞かない使い魔に地団駄を踏んだ。 「……せっかく分けてあげようと思ったのに……」 ムサシも罪な男である。 「うめえ、やっぱりシエスタが作った握り飯は最高だぜ!」 「ふふ、そう言ってくれるとうれしいな」 「まったくだ!明日からのメニューに追加するしかねえな!ガッハッハ!!」 むしゃむしゃと最高水準純白のお米を貪るムサシ。 シエスタが振る舞ったおにぎりで厨房は一大米ブームとなった。 そして、翌日からの食卓に並んだ白い塊に、生徒たちは大熱狂。 後の米騒動である。 「ごちそうさん!……さてと、タダ飯食らいじゃおいらの気がすまねえ!何か手伝える事はないかい?」 「そんな、いいのよムサシくん」 「おおよ!子供が気を使うもんじゃないぜ!」 豪快に笑うマルトーだが、ムサシは首を横に振る。 「いや、男として、武士として!恩を貰いっぱなしってのは沽券に関わるぜ!」 「まったく、ご主人様以外に餌付けされて……あれでも使い魔かしら」 ぷりぷり怒りながら食事を済ませるルイズ。 近くで座っていたマリコルヌが豚の姿焼きをかすめ取られて泣いていた。 「……?何か騒がしいわね」 ルイズが辺りを見回すとなにやら騒々しい。 人混みの中心に向かう。 そこに居たのは、泣きそうなメイドとキザったらしい同級生。 そして彼女の使い魔だった。 「子供のやったこととは言え、許しておけることではないよ!君! 二人のレディの名誉が、傷ついたんだ!」 「申し訳ありません!」 「シエスタ!謝ることないぜ!」 もう人ごみを掻き分けて行く途中で頭が痛くなった。 あの生意気極まりない使い魔は一日一度はルイズの頭痛のタネになる決まりでもあるのか。 ムサシとギーシュは、真っ向から睨み合いをしていた。 事の顛末はこうだ。 ムサシは昼食を済ませた後、忙しい中食事を用意してくれた恩としてデザートを配膳する手伝いをしていた。 そこでシエスタと言うメイドと一緒に食堂をうろつく途中、ムサシが香水のビンを拾い上げたのだという。 落とし主はギーシュ。 親切心から拾い上げたそれを、彼は突っぱねたのだと言う。 しかしその事が切っ掛けにギーシュの浮気が発覚。 下級生のケティと、同級生のモンモランシー二人の女子が登場。 ギーシュの両頬には真っ赤な椛が刻まれたらしい。 そしてその理不尽な怒りの矛先は、平民の小僧の分際でお節介にも落としたビンを拾った─ 「君のせいだよ!?謝ったって許されることじゃあない!」 「はっ!おいらに謝るつもりはねえぜ!女にだらしねえお前が悪いんじゃあねえか!」 「その小僧の言うとおりだギーシュ!」 「お前が悪い!」 あたりはどっと笑いで包まれた。 ギーシュの頬が熱いのは、殴られただけが理由では無い。 「く!君、年長者ならしっかりと子供のやることに眼を……」 「まちな!また女に手を出すつもりか?シエスタは関係ないぜ!」 「ムサシくん、だめ!貴族にそんな言葉を─」 群がった生徒達はもう膝を叩いて笑う者までいた。 この鼻持ちならない子供、何者─ と、ほんの少しの冷静さを取り戻し考え、そしてギーシュは薄く笑った。 ムサシの片眉が釣り上がる。 「思い出したよ……あの"ゼロ"の召喚した、の物乞いか」 「なんだって?」 「いやなに、確かにこちらもゼロのルイズ"ごとき"の使い魔にカッとなるなんて……恥ずべきかもしれないね。 なにせあの主人だ、使い魔への躾もまともにできるわけがない。取り合うほうが愚かだったということさ。 もっとも、魔法一つ使えない"貴族の恥"にはピッタリの使い魔なのかもしれないがね」 ルイズは自分にまで悪口が飛び火し始めたのを見て、顔を顰める。 本人がいるとは露知らずなギーシュのその罵詈雑言、いつもよりもことさら辛辣だ。 しかしその言葉に、ルイズは怒りよりも悲しみが先立った。 言うとおりなのかもしれない。 先程までの自分も言っていたように─ (私は死ぬまでずっと、ゼロのまま) しかし、その考えをやはり打ち砕くのは彼女の小さき使い魔だった。 「ふざけんなっ!!」 「……何だね?」 ムサシは激昂した。 貴族がどうのではない、ムサシは感情を抑えきれなかった。 目の前の男は、自分と共に修行をし、変わりたいと願うルイズを愚弄したのだ。 「あいつが貴族の恥だって!?冗談じゃねえ、おいらから見りゃ、立派な貴族ってのはルイズのほうさ!!」 「ほう、君が貴族を語るのか!?面白い!せいぜい主人の肩を持つがいい!」 ムサシが思い浮かべたのは自分を召喚した二人……姫、そしてルイズ。 そのどちらであれ、高潔な魂を汚す事は許されないと、その想いがムサシに行動させた。 「あいつはお前なんかよりずっと真剣に貴族をやってらい!馬鹿にするっていうなら、許さねえ!!」 自分のことで真剣に怒っている。 そんなムサシを見て、ルイズは居ても立ってもいられない。 「ムサシ、やめなさい!」 「ルイズ!」 「……だいたい聞いてたから。馬鹿にされるなんて、いつものことだから……いいから。 ……だから、ギーシュに謝んなさい、怪我するだけよ」 ルイズは静かに言い放つ。 確かに悔しかった、唇をぎゅっと噛み締める。 だが、この優しくて、まっすぐな使い魔を、今は傷つけたくなかった。 ドットとは言えメイジのギーシュに眼をつけられては、どうなるか。 自分一人傷つけばいいと、ルイズは悲しみを堪えてムサシを制した。 その顔を見て、囃し立てていた連中も、ギーシュでさえも押し黙る。 もっとも、ギーシュはここまで来た手前今更引き下がりそうもなかったが。 しかし、ムサシはルイズの制する手を、ゆっくりと払う。 「うっせえ!!決闘だ!!ルイズに謝れ!!」 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8488.html
前ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その8 登場!土くれのフーケ 魔法学院には斜陽が差し、赤い景色が広がっていた。 一行は、ちょうどルイズの部屋の窓から見える光景、広い裏庭にてムサシを囲んでいる。 「なあ相棒ぉ、俺っちどうしてこんな状況になってんの?」 「わりい、おいらもデルフの力が本当なのか気になるからさ。よろしく頼むゼ、タバサ」 「了解した」 新たな使い手の元に渡った、魔剣デルフリンガー。 今、彼は剣としての初仕事をしようとしている。 「タバサー、有り得ないだろうけれど外さないでよ?どこかの誰かさんじゃ無いんだから」 「ツェルプストー、それは一体誰のことを言っているのかしらぁあ…?」 「あら、そのちっぽけな胸にお尋ねしたらどう?心当たりがおありなんじゃないの」 外野で一悶着起きている最中だが、その初仕事がタバサの手によって成された。 最初の仕事…それは『的』である。 **** 「はぁい、ルイズ。使い魔とおでかけしてたようね?」 「げ、ツェルプストー」 「げ、って何よはしたない」 買い物から学院に帰ってきた二人を出迎えたのは、ルイズの級友二人であった。 会うなり小競り合いを続けている様を見て、やっぱり日常茶飯事だなとムサシは苦笑する。 と、タバサの使い魔であるドラゴンが、顔を摺り寄せてきた。 「きゅいきゅいっ」 「おう、ただいま!悪いけど、今日は何も持ってねえぜ?」 「……今日、は?」 「?ひょっとしてこいつのご主人様かい? この間、おいらの飯を分けてやってたんだけど……」 「……」 無言で竜に手招きし、自分の使い魔になにやら耳打ちする。 ややあって騒ぎ立てた風韻竜の頭を大ぶりの杖で小突いた。 ムサシは苦笑した、他人に餌付けされるなということであろうか。 「おいらから何かやるのは、マズかったかな?」 「別にいい、ねだったのはこちらの方。迷惑だったのなら謝る」 「気にしないでいいぜ」 王国にはおしゃべりが多かったこともあり、口数の少ないタイプと付き合う経験が無いムサシ。 しかしコミュニケーションが取れないほどでは無いようなので一安心する。 ルイズの級友に迷惑をかければ、しっぺ返しは必ず来ると予想できたからだ。 主にゲンコツや平手で。 「それにおいらも、こいつといるのは楽しかったからな。ええっと……」 「タバサ。使い魔がシルフィード」 「そっか、おいらはムサシだ、よろしくな」 手短に自己紹介を済ませたタバサの視線に、ムサシは頭上に?を浮かべた。 なにやら剣を見る自分のように、値踏みをしているような……そんな雰囲気を感じたからだ。 「こ、コホン…それより、ムサシくん聞きたいんだけど」 「おいらか?」 と、ここで突然キュルケに指名され、己の顔を指さすムサシ。 そうよ、とキュルケがウインクを飛ばして応える。 「ねえ、何を買ってきたのか見せてくれない?私とても興味があるわ」 背の小さいムサシに視線を合わせるため、キュルケはしゃがみ込む。 170サントを越える身長のキュルケが屈めば、ムサシとはちょうど頭の高さが一致する。 おまけに胸元とスカートの裾が危険なことになっている、ルイズはムッとした。 「それならちょうどよかったゼ」 「おう相棒、早速出番かい」 そう言うと、鞘から背中の剣を抜く。 変わらず涼しい態度のムサシに、ルイズは何故かしたり顔だった。 「こいつのことルイズにも説明するところだったんだ」 「一体、このボロがどうすごいって言うの?とても信じられないけど」 一行は剣を持つムサシを囲んでいた。 彼のゴーグルの力が如何にも信じ難いルイズや、不思議な装備の数々に興味を抱くタバサはどこか神妙だ。 「私は信じるわよムサシく~ん。ね、早く教えて?」 キュルケの猫なで声が聞こえた途端にルイズの口角がひくついた。 彼女だけはいつもとペースが変わらないようである。 言い合いがまた始まりそうな気配をなんとなく察し、さっさと準備に入る。 待ってましたとばかリに滾る剣を鞘から引きぬき、ムサシは抜身のデルフリンガーを掲げた。 「待ってたぜ相棒、俺っちやる気マンマンってなもんよ」 「わりいな、まだ何を斬るってわけでもねえんだ」 「何ぃ?そらねえぜ、やり場のないこの気持ちをどこに向ければ良いのよ」 「多弁」 「おしゃべりな剣ねえ……」 タバサとルイズが剣のトークに難色を示す。 しかしムサシは気にしていない様子でゴーグルをかけ、この剣の秘密を読み解き始める。 「この剣は『ガンダールヴ』ってぇ奴の使ってた剣で、このサビは仮の姿らしいぜ」 「『ガンダールヴ』?……って、あの?」 「始祖ブリミルが従えたと言われる、伝説の使い魔のひとり」 今しがた自分で口にしたタバサも含め、その場にいた一同は息を飲む。 ガンダールヴ、が何者なのか知らない者はここにはいない。 皆名前くらいは知っている。 それほどの伝説的存在の使っていた剣が目の前にあると言う。 「おおそれだ!さっき言いかけたのはそれ、『使い手』ってなぁそのことよ」 「『使い手』?ムサシ君がそれだっていうの?」 「おうよ色っぺえ娘っ子」 武器屋で出会ったムサシを、デルフは確かに『使い手』と呼んだ。 傍にいたルイズもまた気にかかっていた言葉ではあるが、まさかそれがブリミルの使い魔とつながるとは思いもよらなかった。 「俺っちの前の『使い手』がガンダールヴ、二番目の『使い手』が今の相棒ってこった」 「おいらが、その『がんだーるぶ』と同じだってのか?」 「本当だったらすごいことよムサシ君、やっぱり私の眼に狂いは無かったわ!」 キュルケに抱きすくめられ、降ろしてくれよとムサシは足をばたつかせる。 そんな様子すら気にかからないほどルイズは考えに没頭していた。 ガンダールヴの剣、確かに伝説に名を馳せる剣である。 その剣に認められた自分の使い魔、ムサシ。 だとすると彼もまた『ガンダールヴ』なのだろうか? しかし目の前のムサシ、そしてデルフリンガーの人物像と今まで自分が読み聞いた伝説を照らし合わせる。 そして頷いた。 なんというか…… 「あんたらどっちも伝説ってガラじゃないわねぇ……」 「そりゃねえゼ」 「ひでえなあ娘っ子」 疑心まるだしのジト眼で見られ一人と一振りはがっくりうなだれた。片方は剣なのでよくわからないが。 すると、今まで静観していたタバサが不意に疑問を挙げる。 「ガンダールヴの持つ剣ならば、単なるインテリジェンス・ソードでは無いはず」 タバサの疑問は、当然と言えた。 伝説級の武器であり、マジックアイテムであると言えるデルフリンガー。 何も特殊な能力が無い、とは考え難い。 「何か、魔法がかけられている?」 「お、鋭えところをつくね、眼鏡の娘っ子。俺っちもうろ覚えだが……ええっと……」 「こいつには『魔法を吸い込んじまう力』があるみてえだぜ?」 すっかり自分の能力を記憶の彼方に封じてしまったデルフの代わりに、ムサシが説明する。 この能力ならば、なるほどガンダールヴが『神の盾』の異名を持つ所以にもなろう。 三人の少女はようやくデルフリンガーの正体に納得が行き始める。 すると、ここでキュルケが意地悪そうな笑みを浮かべた。 「ねえ、ルイズ。本当に魔法を吸収するか見せてくれない?」 「え」 「ムサシ君を疑うわけじゃないけどぉ~……やっぱりこの眼で見たいじゃない?それとも魔法の調子でも悪いの?」 明らかなキュルケの挑発的な態度ではあるが、あっさりとルイズは乗せられる。 耳まで真っ赤にして、やってやろうじゃないの!と肩を怒らせムサシの持つデルフリンガーの前に進み出た。 「ファイアーボール!」 吹き飛んだ。 そりゃあもう見事に吹き飛んだ。 ただし、吹き飛んだのはムサシでもデルフでも無く、その後ろ。 はるか上、学院の壁であった。 『固定化』の呪文がかかっている筈の壁に大きなヒビが入っている。 驚愕の表情で硬直したルイズに対し、キュルケは遅れて大笑いした。 「ルイズ、目でも悪くしたの?あんなところが吹き飛んだわ」 「ううううう、うるさぁーい!ちょっとズレただけよ!!」 もはや何度目になるか解らない口論が始まったがもはや慣れっこである。 当初の目的であったデルフの能力確認だが、言い出したタバサが魔法を使うとのことで決着はついた。 話はここで冒頭に戻る。 いよいよということで、言い争いも中断したキュルケとルイズも固唾を飲み、見守った。 ムサシがデルフリンガーを構え、距離を取る。 杖を向けてからふと、考えついたような顔をしてムサシのほうを向いた。 「風系統の魔法では確認が難しい」 「そっか、見える魔法で頼むぜ」 「わかった、威力を絞った『ウィンディ・アイシクル』を使う」 『氷の矢』ウィンディ・アイシクルはタバサの得意とする呪文である。 トライアングルスペルではあるが、威力を控えるという調節も容易であった。 「おーいデルフー、いくぜー!」 「うおー!俺っちこういう視線が集まる状態苦手なの!緊張して背中痒くなってきた~っ!」 「どこが背中なんだ?」 騒ぎ立てる剣自身をよそに、表情一つ変えずタバサによる氷の矢が放たれた。 「ホントに消滅しちゃったわね」 「嘘みたい……ホラ吹きのボロ剣どころか、伝説の剣よ!伝説の剣!」 俄に浮き足立つルイズ。 デルフリンガーの言うことに、偽りは無かった。 放たれた矢は、吸い込まれるように消えてしまったのだ。 思わぬ形で知った事実にすっかり舞い上がっているのだろう、ルイズは勢い良くジャンプして喜んだ。 「あー、効かねえって解っててもこちとらビビんのよやっぱ。まだ胸ドキドキしてら」 「どのへんが胸なんだ」 だがその伝説の剣と、伝説の使い魔は変わらずこの調子である。 例え事実であろうと、伝説の一端を担う者たちと誰が信じようか。 これでは漫才コンビのチビと一振りである。 ルイズは熱くなっていた自分がとたんに虚しくなり、小さな肩をすくめた。 「伝説って所詮…過去よね」 「あ、それひでえな娘っ子」 一同は脱力した笑いを漏らした(タバサを除いて) 夕日も傾き、そろそろ夜が近い。 各々が空腹を満たし、夜を穏やかに過ごし、明日へ備えて床に就く。 そう思っていた、矢先のことであった。 「あら……」 「雲?」 一行の周囲に、影が差す。 日は沈みつつあるが、まだ夜の闇が訪れるには早かった。 それに、ルイズは感じていた。 この寒気は何だろう。 まるで何か危機が迫っているような。 「違う、これは……」 「ゴーレム!?」 タバサがいち早く気付き、キュルケも次いで驚いた。 のそりと姿を表し夕日を遮ったのは、全長30メイルはあろうかというゴーレム。 それが足踏みで大地を揺らしつつ、こちらに近づいてくるではないか。 キュルケが悲鳴を上げて逃げ出したのを皮切りに、ムサシとルイズも後に続いた。 「何よあれ!?」 「まさかあれって噂になってる……」 「!貴族相手にドロボーしてる奴か」 「『土くれのフーケ』、確かに手口は同じ。これほどのゴーレムを使う賊は他にいない」 タバサが落ち着いた様子シルフィードを呼び寄せた。 ゴーレムは裏庭にいる自分たちなど構いもせずに真っ直ぐ宝物庫へと向かっている。 逃げるなら今だった。 しかしシルフィードに乗り込もうとしたのはキュルケとタバサのみ。 二人はUターンすると、そのまま走りだした。 「ムサシくん!」 「逃げろ、みんなっ!」 先んじて振り返ったのはムサシだった。 ゴーレムの足元まで舞い戻り、デルフリンガーを勢いづけて抜刀する。 「デルフ!待たせたな!」 「おうよ、ついに出番か!?」 「でやあぁーっ!」 宝物庫に拳を叩きつけ続けるゴーレムの脚を、据え物斬りの要領で断つ。 一本の線が刻まれたと思うと、そこから上は斜めにずり落ちた。 切断された膝から下はぼろぼろともとの土になりゴーレムのバランスは崩れる。 「やったゼ!」 「いや、まだだ相棒!」 無くなった部分を埋めるように、足元から土が盛り上がり纏わり付く。 やがてムサシに斬られる前と同じ状態にすっかり戻ってしまった。 上を見上げると、黒いローブの人影が肩に立っている。 どうやらあれがゴーレムの主らしい。 「くそ、これじゃキリがねえな」 「どきなさいムサシ!ファイアーボールっ!」 遅れて駆けつけたルイズが早速呪文を唱えるが、いつもの通りの爆発が起きる。 教室や舎の壁を壊すことはできても、今回ばかりはゴーレムの表面が弾けてそれで終わりだった。 後から後から補充され、まるで通用していない。 「ルイズ、お前の魔法は効かねえ!危ねえから離れてな!」 危なっかしい主人を守るため、ムサシは真雷光丸を抜いた。 そしてデルフと共に逆手に構えて、ゴーレムの脚へと飛びつく。 両の剣を交互に突き刺し、巨大な身体を崖に見立てて登っているのだ。 これぞ伝説の武具『ベンケイブレス』の力である。 「何よ……!?私が足手まといだって言うの!!」 ルイズの頭に血が上った。 実のところ、彼女はかなり焦っていた。 先程からフーケのゴーレムが殴りつけているのは、自分が爆破した壁。 すでにヒビが入っていたからこそ、今こうして砕かれているのではないだろうか。 ルイズは、責任感と、意地と、劣等感が綯交ぜになった気持ちが抑えられない。 「私が賊を捕まえてやるんだから……!!あんたみたいなチビに遅れは取らないわ!」 ルイズは、忠告を一切聞かぬまま爆破ばかりの呪文を続けた。 持ち前のプライドの高さは、彼女に逃走という選択を捨てさせた。 あるいは、勇敢な使い魔に対する嫉妬だったのかもしれない。 「あいつだな……おい!観念しな、ドロボー!」 ようやく巨大な身体を登り終えたころには、フーケの仕事は済んでしまっていた。 盗み出した品が入っているだろう箱を抱え、目深に被ったフードから人相は伺えない。 ただひとつ見えたのは、三日月のように笑う口元だけであった。 「年貢の納め時ってヤツだぜ!」 したり顔の盗賊に飛びかかろうとしたその瞬間、ムサシはふわりと自分の身体が浮くのを感じた。 いや、浮いたのでは無い。落ちたのだ。 フーケがムサシが乗っていた部分のみを、風化させた。 「うわっ…!」 この高さから落ちてはひとたまりも無い、とムサシは雷光丸をゴーレムに突き刺した。 なんとか落下も半ばでぶら下がることに成功するが、すでに仕事を終えたらしいフーケはゴーレムを歩かせた。 ゆらゆらと揺れ、しがみつくので精一杯だ。 「くっ……」 「ファイアーボール!!」 ルイズの一際大きな爆発がゴーレムのバランスを崩した、フーケも驚いたのか肩口にしがみついている。 だがその拍子に、ムサシの身体を支える雷光丸が、抜け落ちてしまった。 「うわあっ!」 「ムサシッ!!」 かなりの高さから落下したムサシは、裏庭の草地に叩きつけられた。 主であるルイズは、思わずゴーレムから目をそらして、使い魔の元に駆け寄る。 「ムサシ、やだ、ちょっと…」 「!!危ねえっ」 近づいたルイズを、ムサシは身体ごとぶつかるように突き飛ばした。 人がせっかく心配してあげたのに、だのご主人様に向かって、などといった非難が口をついて出る間もなく。 ムサシがゴーレムが足の下敷きになった。 「え?」 何が起きたのか少しの間、理解できなかった。 そして気づいたとき、ルイズの顔が色を失う。 自分の魔法がムサシを落とし、ゴーレムをよろめかせたのだ、と。 「むっ……」 口が強張り、舌がつっかえて喉が引っかかる。 絞り出せた叫びは目の前で土に埋まった使い魔の名のみだった。 「ムサシぃぃぃぃぃッ!」 **** フーケは目的を終えたからか、さっさと逃げてしまったようだ。 執拗に追おうとしていたルイズは消沈し蹲り、キュルケが先程から声を掛けているというのに反応を見せない。 そこに、シルフィードに乗って追跡していたタバサが戻ってきた。 「途中まで追跡できたけれども、見失った」 「ああ、ありがとタバサ。ってそれよりこの子なんとかしてよ」 見ればルイズの周りの草がすっかり抜かれている。 ぶちぶちと千切っては捨て、千切っては捨て、よほど先程のショックが強かったようだ。 「ね、ルイズ、あのね……」 「うるさい!うるさいわね!放っておいてよ!」 それまで項垂れたままのルイズがキッと睨みを聞かせ、弾かれたように金切り声を上げた。 目には一杯涙が溜まってはいるが、器用にも一粒たりとも零さずにいる。 これは最後の意地だろう。 「あ、あいつ、ホント勝手なんだから、私の言うこと、聞きもしないで、わたしの、わたしの」 呼吸を荒らげて、肩を震わせ、辿々しい言葉を吐き出す。 キュルケもタバサも何も応えずにいた、そうするうちにやがてルイズの声も勢いを失っていく。 「……わたしを庇って……わたしのせいで、あいつ」 「気にすんなよルイズ」 間の抜けた慰めの声なんて、一番求めていなかった。 空気の読めないのんき者に、ルイズの頭がカッと熱くなる。 「バカ!私はあんたみたいに気楽に……」 ルイズがはた、と気づいた。 この場に置いて存在しないはずの少年の声が聞こえた。 何故だろう、頭の中はぐるぐると回って考えがまとまらない。 そこには泥まみれのムサシがぺっぺっ、と土を吐き出しながらも無事でいた。 「あ、あ、あ」 「だから、さっきから喋りかけてたのに」 「…娘っ子ぉ、俺っち汚れちまったよ。なんか拭くもんある?」 「水の魔法で洗い流したほうがいい」 「あ、俺っち無効化しちゃうから駄目だわ、井戸どこ井戸」 皆、取り留めもないような話をしつつ、何か居たたまれなさそうにルイズを見ていた。 というか何故だろう、何でだろう。 ルイズは当然の疑問を口にする。 「なんで生きてるのよあんたーーー!!」 「『スチールボディ』ゲット・インだぜ!」 ゴーレムにぶら下がったあの一瞬、雷光丸でフーケのゴーレムから能力を吸収したのだ。 ゲット・インでエネルギーを吸収した物体は通常消滅する。 しかしストンプゴーレム、キングマンイーターのように内包するエネルギーが膨大なものは消滅に至らない。 今回もそのケースのようだった。 ちなみに、吸収した能力は短時間ではあるが、自らの肉体に鋼鉄の如き硬さをもたらすもの。 そのお陰で落下しても、踏み潰されても軽症で済んだ、まさに危機一髪という所だったわけだ。 ギリギリの所で果たした生還劇にも関わらず、ルイズは激怒した。 だがその実、ひどく安心させられて涙を隠すのに必死だっただけのようだ。 「ようし気をとりなおして……逃さねえぜ、土くれのドロボー!」 一方ムサシは泥まみれになり傷つきながらも、この場でたった一人わくわくしていた。 ようやく、求めるものにありつけそうだ、と。 前ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/873.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (11)力の解放 「どうしたのかしら、お互い動きが鈍くなったわよ」 「膠着状態」 タバサが説明するには、実力高い者同士の魔法戦において、お互いが決定打を欠いた状態になると… このようにお互いが最低限の攻撃だけを行い、相手の出方を待つ膠着戦に陥りやすいのだという。 「へーって、じゃあ、私達が援護すればおじさまの勝ちってことじゃない!」 「…無理、再生するだけ」 「えー、じゃあさ、何か考えましょうよっ!」 「何かって何よキュルケ、何かいい考えでもあるの?」 「そりゃあ……じゃあ!今から王都に戻って騎士団を呼んきましょう!」 「………」 「あんたねぇ、もうちょっと頭使いなさいよ、せめていい武器を持ってきてあげるとか」 「そんなもの、あったら直ぐに渡してるに決まってるじゃ………」 「………」 「あ………」 三人の視線の先、そこにはキュルケに抱えられた、『禁断の剣』が納められた箱があった。 「!?」 影、飛竜の羽音、強風の降臨。 ルイズ達がウルザの背後に降下してくる、飛び降りる三人。 「ミス・ルイズ!先ほど私は安全な場所に退避していていなさいと―――!」 ルイズ、自信の笑み。会心の出来の課題を提出する生徒の顔つき。 「ミスタ・ウルザ!助けに来たわ!この剣を使ってあのゴーレムをやっつけるのよ!」 その手には、不思議な形状をした剣が握られている。 握りの先、途中から二つに枝分かれしている短剣のようなもの。 「君は何を言って……待ちたまえ、ミス・ルイズ、君が握っているそれは何だね」 「これが『禁断の剣』よっ!世界の均衡を壊すほどの剣!この剣があれば、あんなゴーレムなんてすぐにやっつけられるわっ!」 それを両手で握り締めたルイズが、ゴームレを睨み、大きく振り上げる。 「『禁断の剣』よ!目の前の敵を打ち払い給え!……たああっ!」 勢いよく振り下ろすルイズ。 閃光、爆発、倒壊、それ等、状況を打開する事態、一切何も起こらず。 「………えいっ!ええいっ!どうして何も起こらないのよ!『禁断の剣』!力を発揮しなさい!」 うんともすんとも返さない。 「―――フフフフ、……ハハハ!………これは驚いたっ!ハハハハッ!」 場違いな笑い声。 デルフリンガー、シュペー卿の魔法剣を地面に突き刺し、右手で顔を抑えたウルザが、心の底から愉快そうに笑い始める。 突然の展開についてゆけず、呆気に取られるルイズ、キュルケ。 「ミス・ルイズ、それを、貸したまえ、それはそう使うものではない。 いや、それは正しくは剣などではない、しかし、正しく世界の均衡を危うくする力だ」 「ミ、ミスタ・ウルザ?」 理解出来ていない顔のルイズから、剣を受け取る。 そのままそれを、天に差し出す供物のように、高々と掲げる。左手で輝くガンダールヴのルーン。 「これは……こうするのだ!」 マナを用い、『禁断の剣』と自身の間にリンクを組む。 そしてそのリンクを、この場のでウルザ自身と結びついているもう一つの『それ』へと結びつける。 接触、接続、成功。 『禁断の剣』が、ウルザ自身のマナを注がれ、その力を正しく発揮し始める。 まず『禁断の剣』から光の紐のようなものが現れ、今もゴーレムと戦い続けている鉄の獣へと伸びていく。 ウルザが手を離す。すると、それは結びつく片方に引き寄せられるように一直線に鉄の獣に向かって飛んでゆく。 飛んできたそれを、忠犬が主人から投げられたものをキャッチするように、獣は器用に口で受け止めた。 『禁断の剣』を咥える獣、対峙する土くれの巨人。 構図は変わったが、形勢に変化なし。 「あ、あのミスタ・ウルザ?一体何を?」 「――――――」 再び、土のゴーレムと鉄の獣との戦いが始まる。 果敢に飛び掛る獣、挑戦者を打ち払うゴーレム、先ほどまでの焼き直し。 しかし、ウルザの目には、先ほどまでとの違いが、徐々に大きくなっていくのが見える。 その変化に、最初に気付いたのはキュルケであった。 「おじさま!『禁断の剣』が―――」 続いて、ルイズもその異変を察知する。 「何あれ?光ってる、の…?」 「………あの獣が攻撃するたび、光が強くなってる」 獣がゴーレムを攻撃する度に、徐々にだが確実に光を強めていく『禁断の剣』。 「見ていたまえ、これこそ、君達が『禁断の剣』と呼ぶものの力だ」 生徒に数式の解法を教える教師のような顔――ウルザ。 結びつくマナのリンクを経由し、全てを終わらせるべく、指示を送る。 唐突なる均衡の崩壊。 『禁断の剣』が一際大きな光を放つ、その中からが輝くものが多数飛び出す。 瞬間、解き放たれた光がゴーレムへと吸い込まれていくようにして消滅。 変化。 巨大な土くれのゴーレムの姿がその大きさを変容させていく。 小さく、小さく、小さく、小さく、小さく……。 30メイル、20メイル、10メイル、5メイル、3メイル、そして……消滅。 一つの戦いの、あっけない幕切れ。 一方、敵対者の消滅を見届けた勇敢な獣。 彼もまた、その使命を果たし、力尽きその動きを停止したのであった。 「う、嘘みたい!あの巨大なゴーレムが、どんどん小さくなって!最後は消えちゃうなんて!凄いわ『禁断の剣』!」 「―――ミス・ルイズあれは、」 「皆さん、お疲れ様でした」 強大な敵に勝利した実感、お互いが無事であった安堵感、そして自分達がやり遂げたという達成感に湧くルイズ達。 そんな彼女達に声をかけたのは、森の影から現れたロング・ビルであった。 「ミス・ロングビル!ご無事でしたか!」 「これで全員無事ってことね!『禁断の剣』も取り返したことですし、帰りましょう!」 「……フーケ」 タバサの的確かつ、鋭い指摘。 「おっとっと、そういえばそうね」 「そうよ!フーケはどこ!?きっとこの近くにいる筈だわ!」 「きっと、何処かに隠れているんだわ。そう遠くないはずよ」 「そうね、探しましょ」 ルイズ達が手分けしてフーケを探す為の算段の相談している中、ロングビルがゴーレムと獣との戦いの痕、残骸が残るのみとなったそこへ向かうことを誰も気にしない。 ロングビル、学院の長、オールド・オスマンの秘書である彼女が、奪われた秘宝を回収することに問題など抱くはずも無い。 「ミスタ・ウルザ、お疲れ様でした」 そして、彼女は残骸の中から『禁断の剣』を見つけ出して、ひょいと持ち上げる。 「皆さん、もうよろしいですわよ」 『禁断の剣』を手にした、ロングビルに、ルイズ達の視線が集まる。 「あなた方の役目はここで終わりです。ご苦労様でした。 『禁断の剣』の使い方も分かりましたし、もう必要ありません」 高らかなる勝利宣言。 「え!?ミス・ロングビル!?」 「どういうことなの!?」 応えるロングビル、その口元が妖しく歪む。 「生徒の質問には、答えなくてはなりませんね。 さっきのゴーレムを操っていたのは私。加えて、トリステインの城下町にメイジの盗賊も、学院の宝物庫に忍び込んだのも私。 全て、私のしたこと、これが正解です」 「なるほど、つまり君が…『土くれのフーケ』だったのだね、ミス・ロングビル」 「ええ、その通りですわ、ミスタ・ウルザ。 おっと、動かないで頂戴。私はこの『禁断の剣』でいつでもあなた達を消すことが出来るのよ。 …わかったなら、全員、武器を遠くに捨てなさい」 先ほど、自分達の窮地を救った学院の秘宝、それが今、フーケの手の中にある。 先ほどの衝撃的な結末を見ているルイズ達は、フーケの指示に従い、武装を解除するほか無かった。 生徒三人は杖を捨て、ウルザは剣も捨てる。 「ありがとう、助かったわ。 ふふふ、折角『剣』を奪ったのに、どうしても使い方が分からなかったの。 だから、実際に使わせてみて、使い方を知ろうと考えたのよ。 そうしたら、やっぱり正解だったみたいね。特にミスタ・ウルザには感謝しても感謝しきれないわ。 けれど……あなた達はもう用済みよっ!消えなさいっ!」 フーケが魔力を剣に込め、目の前の邪魔者たちを消滅させるよう、思念を送る。 「………っ!!!」 ルイズ達にとっては幸いにも、フーケにとっては不幸にも、何の変化も訪れなかった。 「…なぜ!?どうして魔法が発動しないのよ!?」 「フーケ。それは魔力を用い『装備』した上で力を溜めねばならない、能力を行使し、力を使い果たしたばかりのそれは、ただの置物に過ぎんよ」 ただ一人、結末が分かっていたように、応えてウルザ。 「それはそもそも、こちらの世界の『禁断の剣』などではない。」 ウルザがゆっくりと手を掲げる。 「解呪/Disenchant」 フーケの手にあったものが、ひび割れ、砕け、かつて『禁断の剣』であったものへと姿を変え、地面へ落ちていく。 「…それは、『神河』と呼ばれる世界の武器だ」 「な、なんてことを……」 手から零れ落ちていく残骸を呆然と見つめることしか出来ないフーケ。 「名を『梅澤の十手』という」 ―――梅澤の十手 ハルケギニアともドミナリアとも違う、神河と呼ばれる異世界。 そこで梅澤俊郎という男が、銀と鋼と魔力を用いて作ったとされる武具。 梅澤の十手は三つの力を持つ。 一つ、強化。二つ、弱体化。三つ、癒し。 その強大なる力は「神河」における神同士の争い、 「夜陰明神」と「生網明神」の戦いの行方を左右したほどであったと言われている。 これこそが、一説では、梅澤の十手が神河最高の伝説の至宝であるとされる所以である。 強すぎる力は、更なる力の介入を招く結果となる。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7750.html
前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝 第一章~旅立ち~ その2 月下の魔法学院 「こいつはすごいや、本当に違う世界なんだな」 初めてヤクイニックに召喚されたときのことを思い出しつつ、ムサシは独り言ちた。 空にぽっかり浮かぶ双月は、らせんの塔へ向かう途中に見た明け方の満月を呼び起こさせる。 自分の胸が疼くのを、僅かに感じた。 「二つのお月様が綺麗だぜ」 「何やってるのムサシ、こっちが私の部屋よ」 「ああ、広いなーここは。お城みてえだぜ」 「お城?あんた……まさか……」 「ん?」 「王宮に盗みにでも入ったことあるの?」 「なっ……誰がドロボーだって!?とんだ濡れ衣だぜっ!」 いつぞやの鐘ドロボーのような扱いをされるのはゴメンだった。 ムサシは遺跡のお宝や英雄として使う権利のある伝説の武具しか頂戴した覚えは無い。 「ウソおっしゃい、あんたみたいなナリの子供がお城に縁があるわけないでしょうよ」 「人を見た目で判断してもらっちゃ困るぜっ!おいらは城住まいだいっ!」 「はぁ!?」 いよいよもってルイズはこの使い魔がわからなくなってきた。 無礼な物言い、粗末な身なり。 かと思えば城に住んでたと言い出す始末。 子供のことだ、嘘をつくのは不思議ではない。 しかし決定的にムサシについての情報が足りない今、信憑性はともあれ詳しく話を聞く必要があった。 「……ともかく、あんたにはいろいろと聞きたいことがあるわ、ほら入って」 一日の終わり、部屋に入る瞬間は多少なりとも開放感に包まれるものだが、今日はここからが本番だ。 そういえば男性を部屋に入れるのは初めてかもしれない、ルイズはふとそう思った。 「ムサシ、あんたは何者なの?」 「何者……って言われてもなあ」 「あんた、『また召喚』って……あのとき言ってたわよね。それが気になってるのよ」 「ああ、そのことか」 ムサシは己の長いというべきか、短いというべきか、おかしな経緯の半生を語った。 ヤクイニックなる王国の姫が行った英雄召喚の儀式によって、自分の生まれた世界から召喚されたこと。 その召喚のショックで、自分の過去に関する記憶はほとんど消えてしまったこと。 過去の英雄、武蔵が魔人を封印するために使ったという光の剣を手に、王国の危機を救ったこと。 「おいらは役目を終わらして帰る途中に、ここに喚ばれたんだ」 「……子供の好きそうなお伽話ね」 「疑ってんのかっ?」 ルイズが頭を抱える。 今の話が作り話だと言われればまあ、納得できないこともない。 10歳そこらの子供だ、夢いっぱいの年頃だろう。 作ろうと思えばいくらでも作れる。 だが、今は判断材料が無い。 「あんたが別の世界から来たって言うなら、証拠とか無いの?」 「なんだよ、疑り深いなあ……ほら、これ見てみろよ」 「……このラクガキがどうしたってのよ」 「あ!おいっ!」 ルイズが手渡された紙切れをぞんざいに放ろうとしたので慌てて制す。 他人には無価値に見える化かもしれないが、これは大切な友達から託されたメモなのだ。 「な、なによ」 「……こいつはおいらの友達が命がけで手に入れた、大事なもんなんだ!乱暴にすんな」 なによ、そんならそうと言いなさいとぶつくさ漏らしながらルイズがもう一度覗き込む。 が、やっぱり妙ちくりんな図形の集合体にしか見えない。 「……やっぱりラクガキじゃない」 「読めないだろ?こいつは、おいらが前にいた世界の文字だ」 「適当言ってんじゃないわよ、あんたがデタラメ書いてるかもしれないじゃない」 「なら、こいつでどうだい」 もう一つ、こちらも古びた紙を見せられる。 今度は図のように文字が規則正しく並んでいる。 文字自体は先程同様さっぱりわからなかったが、ルイズはこの並び方にどこか近視感を抱いた。 「……暦?」 「おお、カンがいいな。こいつはカレンダーって言う日にちと曜日を図にした表だ」 「……今度もラクガキ……にしちゃ綺麗ね」 日数はほぼ同じといったところだが、曜日が一つ少ない。 むろん曜日を一つ数え損ねた子供の贋作とも思われた。 しかし、製紙技術、印刷技術共にここハルケギニアでは類を見ないほどに整っている。 子供のラクガキで片付けるには、できすぎだった。 「うーん。ま、わかったわよ、あんたは違う世界の……」 「やっとわかってくれたか」 「……お城に住み込みの小間使い」 「おい!」 「だってあんた子供じゃないの。国の危機を救うとか、伝説の剣豪だとか。誇張も甚だしいわよ」 「ほんっとーに疑り深いなお前……」 「口を慎みなさい。どっちみち私はご主人様、あんたは使い魔。 異世界だろうが伝説の剣豪?英雄?だろうが、これは変えられない現実なのよ」 一度引き受けると言ってしまったムサシはぐうの音も出ない。 思えば英雄召喚のときも、こんなふうに理不尽きわまりない冒険のはじまりだったことを思い出す。 いきなりおかしな世界に召喚され、いきなりモミアゲと身長にケチをつけられた。 加えて自分にとって縁もゆかりもまるで無いお国のために、単身命を張ってル・コアール帝国と戦うハメになってしまう。 その上使命を果たさねば帰還は許されない、断ることは許されない言わばこれは脅迫じみた懇願だった。 今回の状況もまた、それに近い。 やっと自分が元いた世界に帰れる、と思った直後に半永久的奴隷として身柄を拘束されるという始末。 今回はもとより帰れない、そしてなにより逃げることもできたのに引き受けてしまった。 ムサシは自嘲めいた笑いを浮かべて思う、自分はとことん安請け合いだなと。 だが、ムサシは英雄召喚同様、腹が立たなかった。実のところ、この状況ですら楽しんでいる。 自分がどうしようもなく愛する「決闘」が、また待っていると体全体が感じている。 新天地には敵がいる。まだ見ぬ強者が待っていると、武者震いがムサシをワクワクでいっぱいにする。 帰れる帰れないは、後回しだ。 もともと、帰れないと言われてハイそうですかという気は毛頭ない。 気ままな冒険はきっと帰還への旅路も兼ねていると、ムサシのカンがそう告げるのだった。 使い魔、という肩書きは少々うっとおしいものの、じき慣れるだろう。 重荷なら何度も背負ってきた。 それにこの世界の最初の知り合いであるルイズという人間は、幼さを感じさせてならない。 アミヤクイ村のテムとミントにも穏やかに接する、ムサシは世話焼きなのであった。 「ったく、しょーがねーなあ。使い魔ってのは何したらいいんだ」 やる気になったと見えてルイズはやっとムサシが自分の立場を理解したかと大いに薄っぺたな胸を張った。 実際はムサシが『面倒見てやってやるか』という思いであるのだが。 記憶が無いとは言え、その実年齢は一回り二回り上なムサシに偉ぶる少女というのは少々面白い光景である。 「えっとね、まず第一に使い魔は主人の目、耳となること。感覚を共有するってやつね」 「へえ、そんなことができるのかルイズは」 「ううん、何も見えない」 「ダメじゃねえか」 「うるさい!次に主人の望む……秘薬の材料、植物とか、苔とか……集めてこれる?」 「ああ、そんならいっぺんやったことがあるぜ」 ムサシが思い出したのは、ヴァンビになってしまうテムくんを救うためにまぼろしの花を回収したこと。 いやしの水もふたご山から汲んできたなあ、と遠き地の情景に思いを馳せた。 「でもおいらこっちの植物とかなんてまるきり知らないなあ」 「ああもう使えないわねえ……これが大事なんだけど、使い魔は主人を守るものなの」 「なんだ、それならムサシさまの得意技だぜっ!」 ルイズは自分より頭一つ分低いムサシの顔を見下ろして、首を横にふった。 そして溜息。 「はいはい頼もしいですこと伝説の剣豪様……」 「あっ!信じてねえなっ?」 「はぁ~ぁ……あんたみたいなチビには最初から期待なんかしてないわよ」 「ちくしょー、バカにしやがる……」 「いいから、とりあえずあんたの仕事は洗濯、掃除、身の回りの世話。そんくらいできるでしょ」 ムサシもまた溜息をついて後ろを向き、座り込む。情けないことこの上無かった。 まあ子供の姿で信用されないのは仕方ない、英雄召喚のときも最初はそうだった。 前の城暮らしよりは厳しいとは言え、寝床があるだけでもよしとしよう。 しかしながらこの状況、冒険とは程遠く感じられた。 ムサシの行動理念の8割以上を占める『決闘』が見いだせない生活が続きそうである。 それはひどく退屈なものだった。 抵抗としてジト目でルイズを見るもむこうはあくびをするだけである。 「ふぁあ……眠くなっちゃった、他にもあるけど、細かいことは明日話すわ」 「ああ、そんじゃおやすみ」 「ん」 ルイズがムサシの目も気にせずに薄いネグリジェにさっさと着替える。 少年に退行したムサシにそう羞恥や情欲といった感情は湧かないのだが。 日本男児として、はしたねえなあ、と思ってしまう。 「そういやおいらもこの部屋で寝ていいのか」 「まあね、それで寝床なら……」 「よし、おいらもさっさと寝るぜっ」 使い魔用にと用意していた藁束を指差そうとするルイズ。 しかしムサシは自分の荷物からごそごそと何か取り出すと広げた。 「なによそれ」 「こいつは『伝説のねぶくろ』だぜ! 「伝説?ねぶくろにどんな伝説があんのよ」 「ああ、肌触りといいあったかさといい最高だぜ」 「そ、そんなに?」 「そこいらのベッドより、ぐっすり眠れるぜ!」 ルイズはなんだか羨ましくなってきた。 自分のふかふかのベッドも、肌触りのいいシーツも、少し霞んで見えてしまう。 そんな魅力が伝説という響きに詰まっている。 「つ、使い魔がそんなに上等なモノに寝るなんて生意気よ!ちょーっとご主人様にそれを貸しなさ」 「そんじゃ、おやすみっ!」 「あ、待っ」 とたんに高いびきをかきだすムサシ。早すぎる。 使われること無い藁束が無性に邪魔に思えて、もそもそ起きて片付け始めるルイズ。 終わってからなんで自分がやってるのかと、眠るムサシの頭を腹いせにすぱーんと叩くのであった。 起きなかったけど。 前ページ次ページBRAVEMAGEルイズ伝
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1324.html
戻る マジシャン ザ ルイズ 進む マジシャン ザ ルイズ (4)聖なる教示 ハルケギニア大陸、トリステインの南に位置するガリア王国王都リュティス。 その王城、ヴェルサルテイル宮殿はグラン・トロワ。 そこには人形を手に狼狽し、泣き崩れている宮殿の主、ガリア国王ジョゼフ一世の姿があった。 「ああ、ミューズ!おれのミューズ!なぜだ!?なぜこんなことに!?」 感覚共有がなされている伝説の使い魔ミョズニトニルン、シェフィールドとの共有が途切れて早十日。 そして先ほど、再度アルビオンに派遣された間諜からの報告で森の中でシェフィールドの遺体が発見されたとの報がもたらされたのである。 「狂ってしまった!何もかもぶち壊しだ!ミューズ!何てことだ!」 側近の者達や、愛人すらも下がらせて大声で泣き喚く。 それは正しく世間で愚王と噂されるままの姿であった。 しかし、シェフィールドを使い、裏でアルビオン王国内部の貴族派を操っていた切れ者こそが、この男の真の姿である。 暫く、一時間ほど喚き、暴れ、もう一度喚き、そして最後に蹲って泣いていたジョゼフの震えがピタリと止まる。 続いて部屋中に響き渡ったのは大音量の笑い声であった。 「はははははははははははははっ!あはははははははははっ! 狂ったぞ!おれのチェスボードが!?見ているかミューズ!遂に狂ったのだぞ!? すべての駒が盤上からひっくり返された!だが、こんなに嬉しいことは無い!」 狂気/狂喜するジョゼフ、その手がシェフィールドの死亡報告と同時に提出された書類を掴む。 「そうだ!次の対局の相手はお前だ!ジャン・ジャック・ド・ワルド!」 そこには、シェフィールドを殺害の犯人であり、現アルビオン新政府を実質的に手中に収めている男が、現在ガリア国内に潜伏しているとの内容が記載されているのであった。 「あなたは、何者?」 あの日と同じ月が天にある。 闇は全てを等しく隠して染める、双月は冷たくも優しい光で照らす。 すべての絶望の中にあって、決して裏切らない希望の様に。 「虚無のメイジ、それがあなた」 背中の男に語りかけるルイズ、まるで戯曲の場面であるように。 答える男は振り返らない、それが彼と彼女の距離であることを示すために。 「それは君だ、虚無の担い手ルイズ」 「やっぱり、何もかも知っていたのね」 「そういう君は、どうして気付いたのかね?」 「姫さまから、王家に伝わる『始祖の祈祷書』というものを貸して頂いたの。 そうしたら、虚無の呪文のルーンが浮かび上がってきてね。 その時にあの時の魔法が虚無の魔法だって分かっちゃったのよ」 一歩、前に出る。 躊躇わない、戸惑わない、立ち止まらない。 ゆっくりと、歩む、ウルザの隣へと。 そうして空を見上げると、大きな月が瞳に映った。 月がこんなにも大きなものだと、ルイズは始めて知った。 「元々、違和感は感じていたわ。 あの魔法もそうだし、あなたを呼び出したこともね。 それらが全部、自分が『伝説』なんだって分かった時に全部繋がった感じよ」 前代未聞のメイジの召喚。 記憶が混乱していると言いながら、様々な技術をミスタ・コルベールに提供しているウルザ。 一切成功しなかった系統魔法、初めて使った魔法は正体不明。 そしてニューカッスルの城での光景。 疑問の欠片は幾つもあった。 「察しの良いことだ、話すのはもう少し後になると思っていたのだがね」 「こんなことで褒めてもらってもね。 自分のことは分かったわ。 次はあなたの番、もう一度聞くわ」 そこで区切り、ルイズは息を吸い込む。 これから放つのは万感を込めた言葉。 自分達の新たなる関係への、始まりの問いかけ。 「あなたは、何者?」 永く果て無き時を生きた。 悠久の者は時に、短い時を駆ける者の成長の早さを見誤る。 長く生きた故、時を見つめ続けた故に。 ならば認めなければならない、自分と彼女、その新たな関係を。 「ミス・ルイズ、あれの名前を知っているかね」 横に立つルイズに語りかけるウルザ、その先には見事な満月の片割れ。 「月?月は月じゃない」 ハルケギニア、その何万リーグもの空に浮かぶ天体、双子の月の一方。 あれは虚無月。 私の世界、ドミナリアにもまた存在する、二つの月の一つ」 「私の、世界…?」 「その通りだ、ミス・ルイズ。 私はこの世界の人間ではない別の世界、ドミナリアという世界から君に呼ばれたのだ」 真実の告白、想像を遙かに上回る言葉に、ルイズの目が見開かれる。 冷静に、常識的に考えても、納得できる話ではない。 「信じられないわ、別の世界があるなんて、…どうしてそんなことを言うのよ」 「私は真実を話している。それを信じるかどうかを決めるのは君だ」 一瞬の沈黙、梟の鳴き声だけが響き渡る。 「…ああもう、いいわ、別の世界がある、あなたはそこから来た。 全部信じてあげようじゃないの! そこから来たあなたが虚無の使い手、そこの人間は皆が皆伝説ってこと!?」 「ミス・ルイズ、それは発想が逆だ。 ハルケギニアで虚無と呼ばれるものは、他の世界においては伝説ではない、この世界においてのみ伝説なのだ」 「……意味が分からないわ」 「こちらの世界で虚無と呼ばれる魔法、その発展を妨げた要因がこの世界に存在する。 他の世界に潤沢に存在する虚無を利用する為の魔力、それがこの世界には極端に薄いのだ。 ハルケギニアにおいて、虚無の魔法を操るのは薪無しに火を灯すに等しい。 そのような力、伝説として彼方に追いやられても仕方は無い」 すべての魔法を生み出す力、マナ。 その中でも白と黒のマナ、それがハルケギニアにおいては希薄な状態で安定しているのだった。 「…他の世界には普通にあるものがこの世界にはない。 だから虚無は使われなくて伝説になってるって言うのね。 でもそれじゃあおかしいじゃない。 私が虚無の魔法を使える理由がつかなくなるわ」 そう、確かにルイズは自分が使った呪文が『虚無』であることを、心で、体で、確かに実感している。 ウルザは口を開きかけたが、一瞬何かを考え、その後に言葉を紡いだ。 「始祖ブリミル。この世界で六千年前に降臨したとされている何者か。この世界に虚無を持ち込んだ者。 その血を色濃く残す者は潜在的に虚無を操る力を有している。 ブリミルの子孫によって建国されてたというトリステイン王国、その公爵家筋にあたる君には才能があった。 私はそう考えている」 突然にウルザの口から出た始祖ブリミルの名、ルイズはその神の如き神聖な名を耳にしながらも、冒涜的とも言える想像が鎌首を擡げることを止められなかった。 「それじゃ…その言い方じゃ、まるで始祖ブリミルがっ」 「あ、思い出した」 突然に割り込まれる第三者の声。 二人しかいないはずのこの場に現れた闖入者、今の会話を聞かれたのかもしれないという背徳感から、ルイズは慌てて周囲を見渡す。 当の声の主はすぐに見つけることが出来た、それは壁に立てかけられた二本の剣、その片方、古ぼけたインテリジェンスソード、それこそがこの場の三人目であった。 「思い出した、思い出したぜ相棒。 おめーさん、ガンダールヴっつーか、何か別の奴に似てると思ってたんだよ。 今の話で思い出したぜ、相棒、おめぇさん、ブリミルに似てるんだよ」 カタカタと震わせながら喋る剣デルフリンガー。 「待って、待ってよ。 ミスタ・ウルザがブリミルに似てるってどういうことよ、虚無の使い手だからってこと? いい加減なこと言わないでよポンコツ!」 デルフリンガーを両手で持ち上げて、詰め寄るルイズ。 「ポンコツたーひでぇなあ。 なあ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが虚無の使い手だってのはあの城の一件で気付いてたんだぜ。 相棒が何も言わねぇから黙ってたけどよ。 でも別に嬢ちゃんの雰囲気がブリミルに似てるって訳じゃねぇのよ。 相棒はなあ、虚無とかそういうの抜きにして似てんだよ、初代虚無の使い手に」 「そんな、それじゃ、本当に………」 「ミス・ルイズ、君の考えていることは私の推測でもある。 この世界に六千年前降臨した始祖ブリミル。 私はブリミルが別の世界、ドミナリアの人間だったのではないかと考えている」 白と黒を混ぜたらどうなると思う? 全てが無かったことになるんだ。 ―――ウルザ 戻る マジシャン ザ ルイズ 進む
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7562.html
前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 遠ざかっていく青髪の少女を、ルイズは呆然と見つめている事しかできなかった。 そして柊とエリスも、そんなルイズを言葉なく見守っている事しかできない。 もはや力一杯声を出しても届かない程に離れてしまった小さな背中に、ルイズは隣にいても聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、呟く。 「……なんなのよ……ワケわかんない事言って……」 顔を俯けて、肩を震わせる。 声を漏らした事で、心の裡に留めていたモノがぼろぼろと零れ出してくる。 それが一日前のこの場所から始まったことと、回りにほとんど人がいないこともあったのだろう、彼女は誰に言うでもなく叫んだ。 「ワケ分かんない事言わないでよっ!! あの子も、あんた達も、誰も彼も!! 知った風な顔で勝手な事言ってっ!!」 流れるようなピンクブロンドの髪を苛立たしげにかきむしり、子供のように地面を蹴りつける。 「わたしが何したって言うの!? 禁則を犯したワケじゃない、禁呪を使ったワケじゃない、ただ普通に『サモン・サーヴァント』を使っただけじゃない! なのになんでこんな事になるのよ! なんでこんな、なんでわたしだけが、なんっ……!」 ――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは別に『特別』を望んでいた訳ではない。 もちろん、物心が付き始め魔法の事を理解しはじめた頃には、子供らしくそんな夢想を抱いていた事はあった。 だが今となっては、もはや彼女が望んでいるのはこの世界ではごく当たり前の事――メイジらしく普通に魔法を使う事だけだった。 母のようなスクエアでなくともいい。キュルケのようなトライアングルでなくとも構わない。 ギーシュのようなドットでも……いや、極論すればドットでさえようやく使える程度の『おちこぼれ』でもよかった。 『できそこない』――『ゼロ』でさえなければ、どうでもよかったのだ。 根本的に魔法を使えない平民ならまだしも、メイジの血脈を継ぐ貴族であるなら、それはどれほど譲っても高望みとはいえない願望だった。 なのに、そんなことでさえ彼女には届き得ない。 「ルイズさん……」 「――あんた達もそう!」 エリスが小さく漏らすと、ルイズは振り返って二人をにらみつけた。 今にも零れそうなほどに涙を浮かべた鳶色の瞳は、柊達を見ているようで、その実別のものを見ているような気がする。 「ワケのわからない事ばっかり言って、好き勝手な事ばっかり言って! 異世界から来た? 元の世界に戻る? だから契約はしない!? だったらファー・ジ・アースでも何処でも帰りなさいよ! どっか行って! ちゃんと契約してくれる、普通の奴を連れてきてよ!!」 「帰れるもんなら帰ってるっつうんだよ……」 感情を叩きつけるルイズに柊は小さく溜息を吐き出すことしかできなかった。 元の世界に帰る方法がないからこそ柊達は学院に留まり、こんな厄介ごとに巻き込まれることになってしまったのだ。 とはいえ、そんな理屈が今の彼女に通じるはずもなかった。 「だったら今すぐわたしと契約しなさい! あんた達は私の使い魔なんだから! わたしが召喚したんだから!!」 「それは嫌だ」 胸倉を掴まんとするほどに詰め寄って叫ぶルイズに、柊は断固としてそれを拒絶した。 「……なん……っ」 にべもなく言い放った――少なくともルイズにはそう見えた――柊の言葉にルイズは絶句し、ややあって呻くように声を上げる。 「なんでそんなに嫌がるのよ……わたしがゼロだから!? わたしが主人としてふさわしくないから!?」 「いや、魔法が使えるの使えないのはどうでもいい」 「どう……っ!?」 搾り出すように吐いた台詞を切り捨てられ、ルイズは言葉を失ってしまった。 メイジ――貴族達にとっての象徴であり、寄って立つ精神である魔法。 平民達にとって畏敬の対象であり、畏怖の対象でもある魔法。 ハルケギニアに生きる以上魔法はあらゆる意味で切り離せない概念だ。 それを『どうでもいい』。 学院の生徒達からも教師からも、貴族にも平民にも、親からでさえも言われ続けてきた魔法の事を、『どうでもいい』と言い切った。 僅かに息を呑んだルイズの視線を受けて、柊はどこか遠い眼をして言った。 「魔法が使えるってんなら隕石降らせるだの戦艦ブチ抜くだのできる奴知ってっからなあ……」 「な、なんなのそれ……また訳のわかんない事言って……!」 「凄ぇ魔法が使えるってのはそれはそれで認めるが、契約するしないとは別の話ってことだよ」 「っ……じゃあ、わたしの何がダメだっていうの!! 魔法が関係ないなら、なんでわたしと契約するのが嫌なの!?」 柊が契約を拒絶する理由はただ一点だ。 望まずに召喚されたことに関して不満はないでもないが、彼女にも召喚の魔法にも何ら憤りや不快は感じてはいない。 登校中に黒服の男に迫られリムジンに押し込められたとか、 登校中に空から鉄格子が降ってきて閉じ込められ連れ去られたとか、 登校して靴箱を空けたら腕が伸びてきて引きずり込まれたとか、 登校すると教室に世界の守護者が優雅に紅茶を飲んでいて連行されたとか、 登校中に異空間からキャッチャーが伸びてきて捕獲されたとか、 昼休みエリス達と弁当を食べてたらヘリから伸びたフックに引っ掛けられて連れて行かれたとか、 卒業式直後にトラクタービームに捉えられ誘拐されたとか、 これらの拉致っぷりにくらべれば『たまたま開いたゲートに運悪く突っ込んでしまった』などは極めて平和的な分類であり、事故以外の何者でもない。 「……思い返すによくもまあ色々とやってくれるじゃねえかあの女っ!?」 思わず柊は怒りに震えた拳を手のひらに叩きつけていた。 何となく別の方向に向きかけた雰囲気にルイズは気勢を殺がれ、ぽかんと彼を見ることしかできなかった。 彼女の視線に気付いて柊は咳払いすると、改めてルイズに向き直って表情を引き締めた。 「すまねえ、俺が契約しない理由だったな」 空気に呑まれたまま小さく頷く彼女に、柊はその顔を真っ向からみつめたまま、口を開く。 「わからねえ。……『わからねえ』から、嫌だ」 真顔で断言されたその言葉の意味を理解できず、ルイズは言葉を失ってしまった。 柊はそんな彼女に向かって更に言葉を続ける。 「使い魔ってのはメイジにとって大事な存在なんだろ?」 「そ……そうよ。使い魔は一心同体のパートナー。だからわたしは――」 「俺は昨日会ったばっかりのお前のこと、何も知らねえ。 何も知らない奴のパートナーになって信頼を預けるなんて事はできねえ。……そんな大事な契約って奴をするならなおさらだ」 心底から信頼を預けられる相手であるなら、パートナーとして力を貸したり助けたりすることに何ら迷いはない。 というより、使い魔だの契約だのと言った面倒なものさえも柊には必要がなかった。 「ルイズは違うのか? 昨日会ったばっかで、しかも異世界の人間とか訳のわからねえ事ばっかり言う俺達をパートナーとして信頼してくれんのか?」 「そんなの……っ」 問われてルイズは小さく呟き、視線をそらした。 そして彼女は身体を震わせて、搾り出すように声を上げる。 「そんなの……できる訳ないじゃない!! わたしだっていやよ、こんなの!! 凄い力なんて持ってなくったって、ちゃんと契約してちゃんと使い魔になってくれる奴のほうがずっといい!!」 柊達を喚び出す以前は強大な使い魔が召喚されればいいとも思っていた。 だが実際にそうなってみれば自分の心に沸くのは満足感ではなく劣等感でしかなかった。 相手が力を持っていれば持っているほど、魔法一つ満足に使えないゼロの自分が酷く惨めになる。 『メイジの力量を測るには使い魔を見ろ』などという格言を自信を持って掲げられるほど、彼女は自らに築いたモノが何もなかった。 それならいっそゼロらしく、毒にも薬にもならないような生物が召喚されていた方がずっと良かった。 「だからって、わたしにどうしろって言うのよ! 先生達はあんた達を使い魔にしろって言って、でもあんた達は使い魔にはなりたくないって言って……わたしはどうすればいいのよっ!?」 お互いに契約が嫌だというなら、召喚をやりなおす事もできるのかもしれない。幸いにして立会いのメイジもここにはいない。 だが、柊達は何度も失敗した上でようやく召喚できた相手なのだ。 しかも『サモン・サーヴァント』のゲートをくぐってきた相手を目の前にして、他の相手が召喚されるかどうかもわからない。 それに何より、万が一他の相手を使い魔にできたとしても、教師達を巻き込んでこんな事態になった以上『やっぱり別の使い魔にしました』では通らないだろう。 結局、ルイズには選択肢などなかったのだ。 「……どうしたらいいのよ……」 「……」 力なくうな垂れた彼女に、柊は答えを返すことができなかった。 とりあえず『元の世界に戻る方法が見つかるまで』という条件で契約を呑むという方法を思いつかないわけではない。 だが、後にその方法が見つかったとして契約を解除できるのか、あるいはファー・ジ・アースの技術でそれが解除できるのか判別ができない。 それに『使い魔との契約』はこの世界では神聖なものであることは既に知っている。 であれば、そんな一時しのぎで場を誤魔化し、ルイズを誤魔化すなどという事は、柊にとっては普通に契約を拒絶する以上に選択肢としてありえなかった。 「……あの」 沈黙が降りた二人の間に、おずおずと小さな声が漏れた。 声の主――今まで沈黙を保っていたエリスは二人の視線を受け止めて、静かに口を開く。 「私と契約するのは、いけませんか?」 「え……」 「エリス!?」 わずかな驚きと共に、嫌な予感が柊の脳裏を掠める。 ひどく温厚で献身的な側面のある彼女の事であるから、ルイズを見かねて契約に応じるのかと思ったのだ。 そんな柊の懸念を察してか、エリスは彼に視線を移してから言葉を続ける。 「私、柊先輩を信頼しています。柊先輩も、私を信頼してくれてる……と思います。 でも、柊先輩が最初に私の護衛を引き受けたとき、柊先輩は私の事知りませんでしたよね?」 「……いや、そりゃそうだけど……」 柊がエリスの事を知ったのはアンゼロットによる依頼が始まりだ。 時間が押しているとの事で一切の詳細を伝えられないまま彼女の保護を命じられ、その任務の達成後そのまま続けて護衛の任を与えられたのである。 志宝 エリスはその任務の直前に輝明学園に転校してきたということもあって、写真で見せられた容姿以外何一つ知らなかった。 柊がエリスのことを知り始めたのは彼が彼女や赤羽くれはと同居し始めてからのことだ。 「ちょ、ちょっと待った。それとこれとは――」 「あんまり関係ないのかもしれません。でも、形から入るのもいいんじゃないですか? 護衛のことだって、私、柊先輩のこと何も知らなかったけどそれでもいいって思ったから受け入れたんです。 だから……ルイズさんとなら、契約してもいいです」 柊は完全に納得することはできなかったが、エリスがそう言う以上はもう何も口出しできない。 柊が契約を拒絶するのも信念とか信条とかそういった大層なものではなく『なんとなく』なのだ。 賢しらにエリスを諭すことはできなかった。 エリスはとりあえずは引き下がった形になった柊からルイズに向き直った。 ルイズにとっては望んでいた状況のはずなのだが、彼女は喜びよりも疑惑と不安の方が勝った表情でエリスを窺っている。 「……本当に、いいの?」 「はい、いいですよ。でも、その代わりに――」 言いながらエリスはルイズの手を取り、不安に揺れるルイズの瞳を真っ直ぐに見据える。 「貴女のこと、教えてください。魔法が使えるとか使えないとかじゃなくって、いいところもわるいところもひっくるめて『ルイズさん』のことを知りたいんです。 貴女の使い魔になってよかったって、思わせてください」 「わたしのこと……」 エリスを見つめるルイズの視線が僅かに揺れた。 魔法ではない、自分の何か。 貴族だという事? ヴァリエール家の生まれだと言う事? それは違う。それは確かに自分ではあるが、身に纏っている装束でしかない。 それがわかっているから、学院で謗りを受けても決して振りかざす事はしなかった。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが目の前の少女に見せるべきモノ。 それを信頼とでも言うのだろうか。 ……信頼と祝福を刻みに行く、と言っていた青髪の少女を思い出した。 彼女はきっと、パートナーに示すべきモノを見つけたのだろう。 しかし今のルイズは、それを見つけることができなかった。 「……大丈夫です。そんな難しいことじゃないですから」 黙り込んでしまったルイズにエリスは優しく微笑みかけた。 そして彼女は微笑を称えたまま、信頼を込めた調子で言葉を継いだ。 「――柊先輩だって魔法使い(ウィザード)なのに魔法が使えませんけど、私はちゃんと信頼してますから」 「そこで俺を引き合いに出すのおっ!?」 至って真面目な表情で放ったエリスの言葉に柊が素っ頓狂な声を上げた。 その声でエリスは我に返り、慌てて柊を振り返って釈明するように手をぶんぶんと振る。 「あ、ああっ!? 違っ、違うんですっ! そういう意味じゃなくってっ!?」 「い、いや、いいんだ……」 『ウィザード』とは超常的な力を持つ者達の総称の事であって、別に魔法を使えるからウィザードと呼ぶ訳ではない。 柊も魔法を使えない訳ではなく、装備魔法――『魔装』という新しい魔法形態に転換する際に、その適性の薄さから自分で魔法を刻む事をしなかっただけなのである。 とはいえ、今ここでエリスにそれを詳しく解説するような場面ではなかった。 「ご、ごめんなさいっ! 私はただ魔法なんて使えなくても大丈夫だって、別に特別なことなんてしなくていいって……!」 「うん、わかった、わかってっから……」 わたわたと釈明するエリスを柊はどことなく生暖かい表情で宥める。 そんな二人を、ルイズはじっと見つめていた。 仕草や態度で二人が互いに信頼し合っているのが見て取れる。 それが彼女にはひどく眩しかった。 ルイズがああいう風に付き合える相手は学院には存在しない。 それどころか、これまで生きてきた中で無条件に心を開けたのは実家にいる姉ただ一人だけだ。 使い魔が主人と一心同体のパートナーだというなら、自分とエリスもああいう風になれるのだろうか―― 「と、とにかく、そういうことです! だから安心してください!」 誤魔化すようにしてエリスが叫んで、改めてルイズに向かい直った。 その背後で柊はやはり生暖かい目線で呟く。 「エリス……」 そういうことってどういうことなのか安心とはなんなのか突っ込みたかったがあえて口を噤んだ。 ルイズは意気込んで見やってくるエリスをしばし見つめると、一度瞑目して背筋を伸ばした。 「本当にわたしと契約するのね?」 「はい。私はいいです」 エリスは向けられた鳶色の目線を反らす事なく受け止め、翠色の瞳で応えた。 「……。わかった」 言ってルイズは自らの杖を取り出し、軽く振った後言霊を紡ぐ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 謳い上げて彼女はエリスの額に杖を添えた。 静かに眼を閉じたエリスに、ルイズはそっと顔を寄せて――彼女だけに聞こえるよう、小さく呟いた。 「――そして誓う。我は使い魔に祝福を与うる主とならんことを」 「――」 契約と誓約の言葉と共に、少女は唇を重ねた。 「ルイズさん……」 契約を終えた後の余韻の中で、エリスはルイズの囁きを反芻して彼女を見やった。 すると彼女は僅かに頬を染めながら慌てて顔を反らす。 「な、なによ。もう契約はしちゃったんだから。神聖な儀式なんだから、やり直しなんてないし虚偽なんて許されないわよ」 「――」 何故か怒ったように言うルイズの表情がなんとなく可笑しくて、エリスは思わず笑みを漏らしてしまった。 するとルイズは眉を吊り上げて更に声を荒らげる。 「なに笑ってるのよ! とにかくこれでアンタは私の使い魔なんだから! 契約した以上ちゃんと使い魔として働いてもらうんだからね!」 「……はい」 どうにか答える事はできたが、笑いを抑えることができない。 それが気に食わないのか、ルイズは頬を膨らませて完全にエリスから身体を背けてしまった。 エリスは肩を怒らせたルイズの背中を少し見やったあと、少し離れて契約を見守っていた柊に向き直る。 「あ、あの……先輩。勝手にこんな事になっちゃって――」 「ん? あー、いや。俺が契約しないのは俺の問題だから、エリスがそうしたいっていうんなら俺がとやかく言う事じゃねえよ」 どこか申し訳なさそうに言ってくるエリスに軽く返して、柊は腕を組んだ。 「けど、元の世界に戻る方法は探すぞ。俺は向こうに帰るつもりだし、お前がこっちに残るにしてもくれはとかに連絡入れなきゃな」 「……ぁ」 柊の言葉でエリスの表情が僅かに曇る。 契約をして使い魔になれば、ルイズと共にこの世界で生きる事になる――ということに今更ながらに気付いたのだろう。 視線をルイズに向けると、柊の言葉を聴いていたのか彼女もまた複雑そうな表情を浮かべていた。 使い魔になったとはいえエリスはちゃんとした人間なのだ。 彼女にも元の世界(だか場所だか)での生活があり、家族や友人がいるのだという事にルイズはようやく気付いた。 何を言うべきかに窮してルイズは視線だけをさまよわせ、そんな態度を見てエリスも更に表情を曇らせる。 だが二人の様子とは対照的に軽く声を上げたのは、柊だった。 「そんな深刻になる必要ねえよ。ファー・ジ・アースと連絡が取れればハルケギニアの場所……場所? とにかくこの世界の存在がわかるんだから、行き来は難しくても連絡くらいはどうにかなるだろ。海外に移住するのと同じようなもんだ」 「は、はあ……そんなものなんですか……」 「またそんなこと言って……あらかじめ言っとくけど、これからは他の奴にそんな妄言吐かないでよ。本気で頭を疑われかねないから」 「……」 呆れ顔で嘆息交じりの息を吐き出すルイズを、エリスと柊はまじまじと見やった。 二つの視線を向けられて彼女は軽く身を引いてから呻くように言う。 「な、なによ」 「いや……俺達の話、ちっとは信じる気になったのか?」 柊の言葉にルイズはうっと言葉を詰まらせた。 そして彼女は二・三度何事かを言おうと口を開きかけ、眉根を寄せてそっぽを向いてしまった。 「そりゃ、昨日見せてもらった魔法とか授業の時に見せてもらった奴とかあるし……そ、それに、エリスはわたしの使い魔なんだから、主人のわたしくらいは信じてやらなきゃ可哀想でしょ!」 「現金だな、おい……」 つい先程までは頭ごなしに否定していたはずなのに、契約した途端に態度を翻したルイズの態度に柊は嘆息した。 とはいえ、頭ごなしに否定され続けるよりは幾分マシだ。 ルイズにしてもどちらかといえば信じざるを得なかったものを信用する理由が欲しかっただけなのだろう。 なんとなくそれを察してエリスは小さく笑みを漏らし―― 「――っ」 不意に身体に痛みが走って表情を歪め、膝から崩れ落ちた。 「エリス!?」 唐突にうずくまったエリスに柊は慌てて駆け寄ろうとしたが、それを制したのはルイズだった。 「……使い魔のルーンが刻まれてるのよ。すぐに終わるわ」 「そ、そうなのか」 ルイズに別段驚いた様子はなかったので異常事態ということはないのだろう、柊は足を止めてエリスを見やった。 苦しそうに胸に手を当てて震えるエリスを二人は見守る。 ……が、エリスは顔を俯けたままで一向に震えが収まる気配がない。 「お、おい。本当に大丈夫なのか?」 「ちょ、ちょっと……」 怪訝そうに柊が声を上げると、ルイズも不安になってエリスに駆け寄った。 もしかしたら失敗したのかもしれない。 サモン・サーヴァントも何度も失敗していたし、契約の時にも本来の詠唱にはない余計な文言を含めてしまった。 「エリス、大丈夫なの?」 ルイズが膝を突いてうずくまったエリスの肩に手を添えると、彼女はそれに応えるようにルイズの腕を掴んだ。 様子を窺うように俯いたエリスの顔を覗き込む。 僅かにエリスの顔が持ち上がり、『眼』が合った。 「っ!?」 ルイズは思わず悲鳴を上げかけ、しかしそれを声にすることができなかった。 エメラルドのようだったエリスの翠色の瞳。その左眼が青く青く染まっている。 それは蒼穹の青というより、深海の青。 引き込まれそうなほどに澄み渡っていて、それでいて引き摺り込まれそうなほどに深い。 目つきと表情は普段のエリスそのままに、得体が知れないほどに深く冷たい瞳がルイズを貫いている。 「――エ、」 「エリス!」 割って入るような柊の声で、二人の少女は同時に時間を取り戻した。 腕を掴むエリスの手の力が抜け、表情が柔らかくなる。 そして彼女は小さく息を吐くと、ぺたんとその場に座り込んで柊へ顔を向けた。 「先輩……」 「エリス、大丈夫なのか?」 「はい。少し身体……と、頭が痛かっただけで」 「……そっか」 柊は大きく安堵の息を漏らした。 それを見届けるとエリスはすぐ傍で固まっているルイズに目を向けた。 「ごめんなさい、心配かけちゃって」 「……いえ、別に……こっちも説明しなかったし……」 呆然と応えながら、ルイズはエリスをじっと見つめる。 目の前に映っているエリスの瞳は、いつもと同じ翠色だった。その表情も、今までと何一つ変わらない。 (見間違い? でも……) 「えっと……ちゃんとルーンは刻まれてるの?」 「あ、はい。多分……」 言いながらエリスは僅かに頬を染め、自分の胸に手を当てた。おそらくはそこに刻まれているのだろう。 エリスの瞳の事は気になるが、とりあえず契約の儀式が無事に終わったのは確かだ。 「とりあえず、学院に戻りましょう。先生方に報告しないと」 気を取り直すようにしてルイズは言い、立ち上がった。 そしてエリスに向かって手を差し出す。 「いくわよ、エリス」 「あ……はい」 エリスは答えてルイズの手を取り、立ち上がる。 別になにか特別なことをしたという訳でもなかったが、ルイズは何故かそんなやりとりが嬉しかった。 ※ ※ ※ 約一時間後、学院に戻ったルイズ達三人を待っていたのは――特に何事もない、普通の学院だった。 戻るなり教師達に囲まれて杖を突きつけられる事を危惧していたのだがそのような事はなく、授業中ということもあって学院内はむしろ静かだった。 というのも、ギトー達は追っ手を出すと騒いでいたが学院全体の授業を中止してまで生徒一人の問題に教師を割くことなどできようはずもなく、 更に集めた教師達も柊がギトー――スクエアメイジの杖を斬った事を知って及び腰になってしまっていたのである。 無論、ルイズ達が一向に結論を見ない教師達の会議の場に顔を出した時は騒然となった。 だがルイズが事態を解決した旨をするとその場の全員が安堵の息を漏らした……ただ一名、メイジとしての矜持を傷つけられたギトーを除いて、ではあるが。 ともかく、ルイズはその場で議長を務めていた(半分眠っていたが)オスマンにその経過を報告すべく学院長室に場所を移したのである。 そうして今現在。 ルイズ達は正面の机を挟んで椅子に腰掛けたオールド・オスマン、その脇に侍るトライアングルメイジ(おそらく護衛だろう)のコルベール、 そして入り口の脇に立つ秘書のロングビルに囲まれる形で立ち尽くしていた。 「……では単刀直入に聞こうかの」 机に両肘を突き、組んだ拳で口元を隠したオスマンが厳かに口を開いた。 眠そうにしながらも、その奥からは心を覗き見るような鋭さで正面に立つルイズを見据える。 「ちゃんと『コントラクト・サーヴァント』はできたのかね?」 オスマンの言葉にルイズは僅かに口を結んだ。 両脇から感じる柊とエリスの視線を感じながら、ルイズは毅然とした口調で返した。 「はい。両方……とまではいきませんが、こちらの少女――エリスをわたしの使い魔にしました」 はっきりと言い切ったルイズをじっと見つめながらオスマンはふむ、と呟いた。 彼はちらりと柊に目線を移した後、ルイズに向かって口を開く。 「立会いもなしに契約を行ったことはまあ置くとしよう。じゃが、これだけの騒ぎになった経緯を踏まえれば『契約しました』と言うだけでは収まるまい。それはわかるな?」 「……はい」 「契約を交わして使い魔としたなら、そちらの少女にはその証たるルーンが身体の何処かに刻まれておるはず。それを確認させてもらおう」 オスマンの言葉にルイズは黙り込んでしまった。 そんな彼女を見てオスマンは僅かに眉を持ち上げたが、何も言わずにただ彼女の返答を待つ。 ルイズは顔を俯けて少しの間沈黙すると、覚悟を決めたように顔を挙げ真っ直ぐにオスマンを見据えた。 「わかりました。ただ……」 「ただ?」 言ってルイズは再び口ごもる。 努めて気まずそうな表情を浮かべながらエリスに視線をやり、 「その。殿方に見せるには少々憚られる所に刻まれてて……エリスは使い魔とはいえれっきとした人間で、女の子ですし……」 「ほほぅ……!」 途端、オスマンの眼がぎらりと輝いてその身を乗り出した。 『なんだよその反応はっ!?』 と反射的に柊はつっこみかけたが、場が場だけにその言葉を必死に飲み込んだ。 柊の代わりに隣にいたコルベールが冷ややかな調子で言った。 「犯罪ですぞ、オールド・オスマン」 「なぁにを言っとるのかねェ!? わしはただこの学院を預かるものとしての責任をだねえ……!!」 「ミス・ロングビル。お願いできますか?」 「わかりました」 裏返った声で喚くオスマンを華麗に無視してコルベールが言うと、ロングビルがやはり何事もなかったかのように頷いてエリスを促した。 エリスは不安そうにルイズと柊を見やる。 二人が小さく頷くのを見て彼女も頷いて返すと、ロングビルと共に学院長室から退室した。 「服を脱がなければいけないなら、別室まで案内しますが?」 「え、あ……いえ、そこまで大げさな場所では……」 部屋を辞してすぐ、尋ねてきたロングビルにエリスはおずおずと返した。 するとロングビルは廊下を一瞥した後、再びエリスを見て口を開く。 「では、ここでも?」 「えっ……」 そう言われてエリスは慌てて周囲を見やった。 人通りは全くないが、それでも廊下のど真ん中である。 服を脱ぐ訳ではないとはいえ、こんな場所でするのは流石に戸惑う。 そんなエリスの不安を見て取ったか、ロングビルは軽く笑って彼女に声をかけた。 「ここは塔の最上階ですから、生徒はまず通りませんよ。教師もよほどの用事がなければ来ませんから」 「は、はあ……」 とりあえず納得する事にしてエリスは大きく深呼吸した。 眼鏡ごしにじっと見つめてくるロングビルの視線は冷たくはなかったが、これから『それ』を見せる事にはやはり緊張してしまう。 意を決してエリスはブラウスのボタンをはずすと、服を少しだけはだけて見せた。 「それでは」 そう言ってロングビルが身を僅かに屈め覗き込むと、彼女の年相応――と言うには少々物足りない程度に隆起した胸元に、ルーンが刻まれているのが確認できた。 それを見てロングビルの眼が細まる。 彼女はしばしそのルーンを観察した後、小さく首を傾げた。 「あ……あの……何か変でしたか?」 「……あぁ、お気になさらず。少々見慣れないルーンだったもので」 ロングビルの様子に不安になったエリスが尋ねると彼女はそう答え、顎に手を添える。 基本、使い魔に刻まれるルーンはその動物の系統……つまりは主人たるメイジが先天的に相性の良い系統に関するルーンが刻まれる。 例えばサラマンダーなら火に関する意味合いのルーンが刻まれるし、風竜ならば風に類する意味合いのルーンが……といった具合だ。 だが、エリスに刻まれたルーンはそれに該当しない見慣れないものだった。 ルーンには違いないが、蛇がのたくったような文字で形も意味合いも漠然として読み取れない。 もっともロングビル自身その手の知識が豊富という訳でもないので単に知らないだけなのかもしれない。 だが、彼女の知識で強いて言うのなら―― 「あの……もういいですか?」 「あ、もう結構ですよ」 エリスの声にロングビルは思考を中断して答えた。 別に誰か通りかかったという訳ではないが慌てて衣服を正したエリスを見つめながら、ロングビルはふと思い立って彼女に声をかける。 「よかったの?」 「え?」 エリスは言われたことの意味がいまいち理解できずに首を傾げてロングビルを見やった。 すると彼女は普段の冷淡な表情を僅かに崩し、針のような視線でエリスを見据えている。 「契約のこと。流石にあの子が貴女を犬猫のそれと同じように扱うとは思わないけど……それでも、人間が使い魔になるなんて常識ではありえない。……本当に良かったの?」 エリスは今までと違う態度、今までと違う口調で――しかしはっきりと感情の篭った声で問うてくるロングビルをまじまじと見やった。 そこでロングビルの方も自分の態度に気付いたのか、眉を顰めて視線をさまよわせ、気まずそうに顔を逸らしてしまう。 エリスは彼女に投げられた言葉を反芻するように僅かに顔を俯けると、呟くように言った。 「……私、誰かの役に立ちたいんです。『向こう』では世界に生きる皆のために頑張って……頑張ったけど、結局皆や柊先輩達に迷惑どころの話じゃない事をしちゃって」 『向こう』――ファー・ジ・アースの事など知る由もないロングビルとしては彼女の言葉に眉を潜めるしかなかった。 だが、相手にというよりは自分に向かって語るような調子にロングビルは口を噤んでエリスを見守る。 「力を失った私には、もう柊先輩や皆の役には立てません。でも、ルイズさんの役には立てるかもしれないんじゃないかって。 私がこの世界に来た意味があるんじゃないかって。自分でもよくわかりませんけど……たぶん、だから契約したんだと思います」 「そう……ですか」 話の中身はさっぱりわからなかったが、ともかく彼女なりにちゃんと思うところがあって契約をしたのは確かなようだ。 エリスの表情を見て取ったロングビルは諦めたように吐息を漏らした。 「貴女がちゃんと決めたというのなら、私からはもう何も。頑張ってくださいね」 「はい。心配してくれてありがとうございます」 口調と態度を元に戻してそう言ったロングビルにエリスは屈託のない笑みを返し、深く頭を下げた。 そして様子を窺うように彼女を見上げると、おずおずと尋ねる。 「あの……さっきの口調……」 「……。さっきのが私の素なんですよ。あまり学がありませんので、それらしく見えるように普段は"作って"るんです」 「そ、そうなんですか?」 「そうなんです。恥ずかしいので内緒にしておいて下さいね」 「わかりました」 くすりと笑みを零すエリスを見て、ロングビルはとりあえずは取り繕えた事に安堵の息を吐き出した。 端的に言って可愛げなど微塵もない貴族やその卵達に囲まれていたこともあって、エリスの柔らかい物腰に釣られて迂闊にも口を滑らせてしまった。 顔立ちは全く似ていないが、なんとなく遠い地にいる『あの子』を思い出したのだ。 だからだろう、柄にもなくあんなことを聞いてしまった。 それは別に彼女を心配していた訳ではなく、契約を拒絶した柊や自分で契約を選んだエリスを見て―― 「身につまされた、ってトコかね」 「はい?」 「いえ、なんでも。とにかくルーンの確認は終わりましたから、部屋に戻りましょう」 首を傾げたエリスを努めて平静に受け流し、ロングビルは彼女を学院長室に促した。 部屋に戻った二人を待ち受けていたのは、四人四種の視線だった。 自分達に集中してくる眼にエリスは少し萎縮してしまうが、ロングビルは委細構わぬ様子で歩を進め、退室した時と変わらぬ姿勢を保ったオスマンの元へと歩み寄った。 「確認しました。彼女の身体にはちゃんと使い魔のルーンが刻まれています」 「確かかね?」 「はい。少々見慣れない珍しいルーンでしたが……」 「見慣れないルーンですと?」 ロングビルの言葉を耳にしたコルベールが眼と頭を輝かせて身を乗り出した。 しかし彼女は至って平静に、しかし僅かに冷たい口調でコルベールに告げる。 「犯罪ですよ、ミスタ・コルベール?」 「な、なァにを言っておるのです!? 私はただ学術的な好奇心からですなあ……!!」 「とにかく、彼女がミス・ヴァリエールの使い魔であることは間違いありません」 「ふむ」 裏返った声で喚くコルベールを華麗に無視してロングビルが言うと、オスマンは一つ頷いてから改めてルイズ達を見やった。 「まあよかろう。ともかく、キミの『使い魔召喚の儀式』に関してはこれで完了とする」 「おめでとうございます、ミス・ヴァリエール」 「ありがとうございます」 コルベールから向けられた賛辞の言葉にルイズは恭しく頭を垂れる。 彼はそんな彼女を喜色も露にして大きく頷くと、次いで隣にいる柊に眼を向けた。 「ときにミス・ヴァリエール。契約を交わした彼女はいいとして、そちらの彼はどうするのです。後ほど使い魔に?」 話を振られて柊は思わず身を硬くしてしまった。 集中する視線に軽く首を掻くと、彼はおずおずとコルベールに向かって言う。 「いや、俺は契約はしません。とりあえず元のせ……あー。元いた場所に戻ろうかと」 「元いた場所……そういえば召喚された時に何か言っておりましたな。元の世界がどうとか」 「え、ええと! か、彼等はとても遠い場所……そう、ロバ・アル・カリイエから来たんです!」 首を捻って自問しかけたコルベールに、ルイズは慌てて口を挟んだ。 「ロバ……何?」 聞いた事のない単語が出てきて柊が首を傾げると、ルイズがギラリと突き刺すように睨みつけた。 どうやら黙っていろという事らしい。 ともあれ、ルイズの言葉でコルベールは納得したらしく大きく頷いた。 「なるほど。あそこはサハラを挟んでいて交流などあってなきのごとしですからな。別の世界と言ってもあながち間違いではないかもしれません」 「と、とにかくそういう事なのでどうにか帰る方法を探してあげようと思います」 取り繕うようにルイズは身振りを加えて訴えると、オスマンは唸るように声を漏らした。 「ふぅむ……しかし、契約せぬというのであれば彼は部外者、という事になってしまう。 仮にもここは由緒正しき貴族の子弟を預かる魔法学院……来歴も定かではない平民を置いておくのは少々憚られるが」 「しかしですな、オールド・オスマン」 「無論わしとしてはやぶさかではない。 だが生徒達は勿論彼等を学院に預けておる諸氏もいい顔をせんじゃろうし、教師達にもあまり受けは良くなかろう。特にスクエアの名を折られた約一名などはな」 「それは……」 もっともと言えばもっともと言えるオスマンの主張に、コルベールだけではなく柊も返す言葉がなくなってしまった。 雇われてこの学院にいる者たちは別にして、柊達はこの学院に来てから様々な意味で生徒達から注目を集め、また様々な意味の視線を受けている。 成り行き上仕方ないとはいえギトーとかいう教師の面目を潰してしまった事もあった。 見通しが甘かったか……と心中で柊が唸っていると、ルイズがオスマン達に一歩踏み寄った。 彼女はオスマン達を真っ直ぐに見つめると、胸を張って毅然と言う。 「彼を喚び出したのはわたしです。契約をしない以上、彼を元の場所に戻すのはわたしが負うべき責任。 それを放り出すつもりはありません」 「……お前」 柊はわずかに驚いてルイズに見入った。 彼女はちらりと彼に視線を返すと、ふんと小さく鼻を鳴らして眼をきった。 そして自分を見つめてくるオスマンやコルベールの視線を正面から受け、それでもゆるぎない態度で受け止めた。 コルベールはルイズを見つめて眩しそうに眼を細め、オスマンは満足気に息を吐いた。 「よろしい、ならば彼はキミの預かりとしよう。名目上はそこの彼女とともにミス・ヴァリエールの使い魔という扱いにするが……よろしいかね?」 「……まあ、形だけってんならそれでいいっす」 向けられたオスマンの視線に柊は頭を掻きながら頷いた。 形だけであるならばその環境は願ったりといったところなので何も問題はない。 隣のエリスもしっかりと頷いた。 そしてルイズは―― 「いえ。わたしが使い魔にしたのはエリスですから、ヒイラギは使い魔としては扱いません」 はっきりとそう言った。 弛緩した空気が微妙に張り詰めた。 オスマンの片眉が僅かに持ち上がり、コルベールは息を呑んだ。 柊とエリスはここにきてのルイズの発言に驚いたように彼女を凝視した。 ルイズはそれらの視線を動じる事なく受け止め、ピンクブロンドの髪を轟然とかき上げて、言った。 「ですので、ヒイラギはわたしとエリスの――ゲボク、ということで」 「おいコラァ! なんでそこでオトすんだよ!?」 「オトす? 何言ってんの? わたしは正真正銘本気よ?」 「これはアレじゃないのかよ! 俺がお前をちょっと見直して、いい話で終わるんじゃないのかよ!?」 「いい話じゃない。本来なら放逐されるところを面倒見てあげるっていうんだから」 「お前……っ!」 慌てて食って掛かる柊に、ルイズは聞く耳持たないと顔を背けた。 二人の様子を見やっていたオスマンが鋭い視線をルイズに向け、厳かに口を開く。 「ゲボク、とな」 「そうです。コイツはゲボク」 「それでよいのかね?」 「いいです」 「じゃあそれで」 「よくねえだろ!! 俺を無視してあっさり認めてんじゃねえよじじぃーっ!?」 柊が叫ぶとルイズは煩わしそうに顔を顰めた。 「うるっさいわね、アンタわたしと契約しないんでしょ!? でもここには残りたいんでしょ!? だったらそれくらい当然じゃない! わたしが主人、エリスが使い魔!」 彼女は自分とエリスを順繰りに指差し、そして最後にびしりと柊を指差した。 「アンタはその下! ゲボクよ!!」 「ふざけんなーっ!?」 絶叫が学院長室に響き渡る。 こうして使い魔とゲボクの新しい生活が始まった。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い